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〈長生炭鉱水没事故〉“故人の尊厳が守られるよう尽力”/ダイバー死亡で刻む会が会見【詳報】

2026年02月10日 12:13 共和国 歴史 社会

8日に行われた記者会見

山口県宇部市・床波海岸沖にある旧長生炭鉱で7日、遺骨収容のための潜水調査に参加していた台湾出身のダイバー、魏修(ウェイ・スー)さん(57)が死亡したことを受け、調査を行っていた地元の市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(以下、刻む会)が8日午前に宇部市内で会見を開いた。

刻む会の井上洋子代表は、「尊い命が亡くなったことについて、私たちなりの責任の取り方を考えていきたい」とし、「今は何よりも遺族を支え、故人が尊厳を守られながら祖国の地を踏めるように、全力を尽くしたい」と述べた。

会見では、事故当時の状況について潜水責任者で調査開始当初から携わってきた水中探検家の伊左治佳孝さんが説明。魏修さんは「ハイパーオキシャー(高酸素症)による酸素中毒を起こし、けいれん症状が出て溺水したことは間違いない」との認識を示した。なぜ高酸素状態になり、それが継続したのか原因は不明だ。

事故当日の経過

会見では事故当時の経過が丁寧に説明された

伊左治さんは、ダイバー全員からの聞き取りと、ダイビング呼吸装置であるリブリーザーの記録をもとに事実のみを述べると前置きをしながら、当日の経過を話した。

7日の調査は、魏修さんとタイ出身のダイバー2人の計3人が担当した。前日の調査と同じく、沖の排気筒「ピーヤ」から潜水を開始。2番目に潜った魏修さんは午前11時32分に潜降を開始し、約10分後の11時42分頃には高酸素状態に。「記録からすると、潜降の途中からずっと高酸素状態にあった」という。

説明によると、ダイバーの3人は事前ミーティングで、ピーヤの底で一度落ち合う計画を立てていた。先頭のダイバーがピーヤ底に到着し後続の2人を待っていると、魏修さんが到着。かれから「行け」との合図があり、坑道へとつながる通路へと進んだ。少し進むと2段階で通路が細くなるため、先頭はその度に待っていたが、魏修さんが一向に来なかったという。そのため、探しにいこうと後退した。

最後尾のダイバーは、入っていく途中で前のダイバーがいつまでたっても進まないため、おかしいと判断し合図をしたが、近づいていくと、けいれんを起こしていることに気づいたという。

「(最後尾のダイバーが)魏修さんを連れて帰ろうとするも、けいれんによる身体硬直で、設置されたロープを掴んで離せない状態だった。それで、助けを求めに11時47分に水面に浮上した」(伊左治さん)。

その後、先頭のダイバーが11時56分時点で、坑道に入る手前、ピーヤとの接続部あたり(水深32m地点)で魏修さんを発見した。

「その時点で魏修さんはロープから手を放し、口には呼吸器をくわえていなかった。(先頭のダイバーが)緊急時用のレギュレーター(タンク内の高圧空気をダイバーが呼吸できる適切な圧力に減圧する調整装置)をくわえさせたうえで外へと押し出し、ピーヤ内のプラットフォームに引き揚げた。12時5分頃のことだ」(伊左治さん)。

ここまでが事故発生前後の詳細だ。当時、追悼ひろばでの炭鉱犠牲者追悼集会で発言中だった伊左治さんは、11時57~58分頃に連絡を受け、急きょ現場へと向かった。

伊左治さんは、ピーヤ上からみて魏修さんの呼吸がないことを確認し、全体に向けてCPR(心臓マッサージと人工呼吸)と救急要請を指示。一部機材を切断・解除したうえでCPRを開始した。また自発呼吸がなかったため、12時14分頃からは用意していた陽圧マスクを使って酸素投与を行いながら心臓マッサージを交代で施したという。

伊左治さんは、救急隊が到着し、続いてドクターが到着した段階で救命を引継ぎ、他のダイバーと共に浜へ戻った。

魏修さんは、その後、病院に搬送されるも午後2時頃に死亡が確認された。

“勝手に判断しないで”

会見で伊左治さんは「ウェイ・スーさんの尊厳を守ってほしい」と訴えた

会見では、事故原因についての質問が相次いだ。

まず、最強寒波という状況で、海水の水温が極めて低く、低体温症を起こしたのではないかとの質問に対し、「長生炭鉱は、海とは隔離されている。そのため水温は年間を通して変わらず15度。またダイビング開始直後の事案なので低体温に起因するものではないと考える」と回答。また減圧症とも関係なく、当日の体調不良もなかったとの認識を示した。

一方で、今回の事故が長生炭鉱そのもののリスクを示すことにはならないとの見解も示した。操作ミスや機械のエラーがあったのではないかとの質問もあがったが、それについては、救命の過程で機械を切断・解除しているため不明であり、推測にしかならないとしながら、それ以上の回答を控えた。

5日の記者会見を終えて、井上代表と笑顔で握手を交わすウェイ・スーさん(右から2番目)

「故人は、リブリーザーの指導者を育成する専門家でもあった。今回も、潜水以外のストレス要因をなくすために、先に日本にきてチェックダイブもし、前々日には準備を終えていた」(伊左治さん)

伊左治さんは故人と23年12月に出会い、今年1月にもフィリピン・セブ島のモアルボアルで潜水するなど国内外で潜水経験を共にした。そんな「仲間」との最期の会話について問われ、「かれは、こういうことをしたい、もっといいインストラクターを育てたいなど未来の話をよくしていた」と回答。

2月3日、ピーヤが見える岸部で伊左治さんの紹介に笑顔で応対するウェイ・スーさん(真ん中)

会見の最後に伝えたいこととして、こう話した。

「かれは自分の意思で参加し、自分の技術をもって潜水している。僕のやっていることに協力するのが嬉しいと言ってくれていたから…自分が悲しむのも違うと思う。僕らは何が起こっても自己責任で潜っている。だから井上さんのせいでも、遺族たちのせいでもない。政府支援がないせいでもない。かれは、ダイバーとして誇りをもって潜るという選択をしたと思うので、勝手に判断しないでほしい」。時折言葉を詰まらせながら、肩を震わせ泣いていた。

会見で、刻む会の井上洋子代表は、遺族用に準備している費用を韓国の遺族会に手渡したところ、「それはダイバーの遺族たちのために使ってください」と託されたことを涙ながらに打ち明けたうえで、「遺骨収容、返還への思いが消えることはないが、どのような形で続けていくのか、時間をかけて検討を続けたい」との立場を明かした。

8~10日にかけて遺族や友人などが来日し、遺体と対面した。今回の事故については海上保安部が担当し原因などを調べているという。

この日の会見後、炭鉱の入り口である坑口跡前で、6日に収容された遺骨が警察へ引き渡された。報道によると、山口県警宇部署は9日付で、収容された骨が「人骨」だったと発表した。見つかった骨は、人の頭蓋骨1点、下顎の骨1点、首の骨が3点と、人の歯9本であることが判明した。

取材を終えて

最後に、今回の潜水調査に先立ち行われた記者会見(4日)で、調査に携わる思いについて質問に答えた魏修さんの発言を紹介する。

「はじめまして、ビクター(イングリッシュネーム)と申します。私は佳孝さんと南大東島でのダイブプロジェクトに参加した際に、この長生炭鉱プロジェクトについて話を聞きました。その時、プロフェッショナルダイバーのスキルが求められる場面だと思い、感銘を受けました。ぜひ貢献したいと思い、この度実現しました。このような機会に参加することができて光栄です」

魏修さんのご逝去を悼み、心より哀悼の意を表します。

(文・韓賢珠、写真・盧琴順)