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<本の紹介>ルポ 過労シニア「高齢労働者」はなぜ激増したのか/若月澪子著

2025年12月29日 08:00 社会

60、70代の本音と実態に迫る

労働の問題と言えば、男女格差、非正規雇用、外国人労働者、低賃金などが思い浮かぶが、シニア労働者の問題を思い浮かべる人はどれくらいいるだろうか。

街中でも60歳以上であろうコンビニ店員や工事現場の大工を見かけることがある。日本は今や、60~64歳の8割、65~69歳の6割、さらに70歳以上の半数以上が働く時代となった。

本書は、非正規雇用の割合が増える60歳以上をシニアと定義し、21人の働くシニアへのインタビューと潜入取材によって、シニア労働者がどのような現場で働き、仕事をどのように捉え、シニア労働の現場にどのような問題が隠されているのかを明かしている。また、シニアの人材派遣担当者や会社のシニア雇用担当者に対するインタビューも「採用側の本音」というコラムとしてまとめられている。

本書に紹介されるシニア労働者の職種は、障がい者施設の支援員、フリーランス、リゾートバイト、配送センターの荷物仕分け、マンションの管理人、病院の清掃員、介護職、新聞配達員、非正規公務員、工場労働者などさまざまで、現役時代の職種や経済状況、働く理由もばらばらだ。各仕事の内容はもとより、非正規雇用、時間の搾取、低賃金などの問題点、健康不安のなか肉体労働せざるを得ない社会的構造についても指摘する。

働き続ける理由のひとつに、子どもの卒業後も続く教育ローンの支払いや、家に引きこもる子どもを養わなければならないという、終わらない「子育て」がある。その他、低年金、貯金なしという貧困、現役時代から下げられない生活水準、社会的居場所の確保など働く理由はさまざまだ。

75歳の男性が10年間仕事を続けて得たボーナスはたったの3万円。筆者は「働き者」のシニア労働者を使い捨てにする扱いを批判しながら、自身がどこかで理想の高齢者のように思ってしまうことを警戒する。

「働かざるを得ない」ではなく、働くか、働かないかを選択できる社会、シニア労働者を大切にできる社会が望まれる。

(侑)

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