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〈本の紹介〉スコットランドと〈開かれた〉ナショナリズム/高橋誠 著

2025年12月03日 11:00 社会

排外主義に陥らない可能性探る

慶応義塾大学出版会/本体6930円(税込)

近年、欧米における極右の台頭が顕著となり、その余波は日本にも及んでいる。極端なナショナリズムに共通するのは、定義が曖昧かつ恣意的な「自民族」の利益を優先し、移民排斥を訴えている点だ。

本書は、排外主義につながりがちなナショナリズムを掲げながら、移民の受け入れに肯定的なスコットランド・ナショナリズムに注目し、独立問題に焦点を当てつつ、その論理に迫る。

ブリテン島北半部に位置するスコットランドは1707年にイングランドと合邦した以降も、タータンやバグパイプなど独自の文化を育んできた。1960年代後半から独立志向が高まり、2014年には独立の是非を問う住民投票が実施された。結果は、賛成44・7%、反対55・3%だった。

独立の機運が高まるとともに英国政府は権限を分譲し、1997年にスコットランド議会が設置された。さらに翌年、「スコットランド法」の施行により、立法権限の一部が移譲された。これは独立志向を抑えるための措置だったが、その後、同議会では独立を党是とするスコットランド国民党が台頭し、2014年の住民投票へとつながっていく。

著者はその原動力となったスコットランド・ナショナリズムがどのように形成されてきたのかを政治経済的な背景を紐解きながら詳細に分析。スコットランド・ナショナリズムの概念について、実存的ナショナリズムと実用的ナショナリズムに大別できるとし、さらに実用的ナショナリズムは福祉ナショナリズムと競争ナショナリズムに細分化できると指摘する。

そして実用的ナショナリズムは、独立自体を目的とする実存的ナショナリズムとは異なり、「善き生」のための手段として独立を捉えていることに触れ、包摂的な社会モデルを追及するといった特徴を、国民党の政策などを踏まえて論じている。

著者が述べるように、移民の社会貢献を強調し、「多様性は強み」というスローガンを掲げる独立派の特性を理解することは、排外主義へ傾斜するナショナリズムを抑制しうる要因を探る一助となるだろう。

(晟)

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