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〈トンポの暮らしを支える/こちら同胞法律・生活センターです!61〉成年後見制度について

2025年08月25日 13:08 寄稿

年齢や疾病を理由として本人の判断能力が不十分になった場合に、本人を保護、支援することを目的として、家庭裁判所が成年後見人等を選任することがあります。たとえば、父親が認知症になったので父親(本人)に代わって子(成年後見人)が金銭管理をしたり介護施設の入所契約をしたりという役割を担う必要がある場合に利用される制度です。本人の権利利益のために法定代理人として活動するわけですが、昨今の高齢化の進展、単独世帯の高齢者の増加等から、成年後見制度に対するニーズの増加、多様化が見込まれる一方で、現行の成年後見制度にはいくつかの課題があると言われております。

そこで、成年後見制度をさらに利用しやすくすることを目的として、現在成年後見制度の見直しが法務省の法制審議会において行われています。今回は、成年後見制度の概要から見直しが検討されている事柄まで、ポイントを解説いたします。

Q 成年後見制度ってどういうもの?

A 成年後見制度には、大きくわけて法定後見と任意後見の2つがあります。現状は圧倒的に前者の利用が多いです。両方とも裁判所が関与して、判断能力の衰えた本人の権利保護のために成年後見人等が活動するということは変わりませんが、法定後見はすでに判断能力が衰えた後に制度利用が始めるのに対して、任意後見は、まだ元気なうちに自身で制度の利用を選択するものであるという違いがあります。

また、法定後見では成年後見人の代理権(本人に代わって契約等をする権限)が包括的であるのに対して、任意後見では、本人の意思であらかじめ指定して限定的にすることも可能です。

両方とも、基本的には誰でも成年後見人等になることができますが、法定後見においては家庭裁判所が人選の決定権を持っています。たとえば親族間に争いがある場合や、相続や訴訟等に対応する必要がある場合などは、弁護士や司法書士といった専門職が選任されることが多いです。

Q 現行の成年後見制度は何が問題なの?

A 一言で言うと、本人の権利保護のための制度であるにもかかわらず、本人のニーズに十分に合っているとは言えないところがあるというのが問題です。先ほども述べましたが、任意後見は本人の意思で運用方法を定めることができるので、本人のニーズに合わせやすいものと言えます。したがって、現行の成年後見制度の問題は、法定後見にあるということになります。

主に4つの問題があるとされています。

①制度を利用しようとした動機が解消されて、成年後見制度を利用しなくても本人や家族だけで十分にやっていける場合であっても、判断能力が回復しない限り成年後見制度を利用し続けなければならないこと、②本人の権利保護の目的のために必要な限度を超えた取消権や代理権が認められてしまうことがあり、結果として本人の行動が過度に制限され得ること、③成年後見人等による活動が本人の意思に反したり本人の意思を無視して行われたりすることで、本人の自立や自己決定に基づく権利行使が制約される場合があること、④本人の制度利用のニーズの変化に応じた成年後見人等の交替が実現せず、本人のニーズに合った保護を受けられない場合があること、です。

ここには挙がっていませんが、個人的に苦労した経験があるのは、本人(被後見人)が亡くなった後のことです。理論上は、本人が亡くなった時点で成年後見人の職務は終了するとされていますが、実は法律上明確な規定はありません。しかし、少なくとも、相続人に対して財産の引継ぎはしなければなりませんので、亡くなったから一切何もしません、というのは通用しません。苦労したのは、戸籍上相続人がいるのは明らかだけれども連絡がつかなかったときです。そのときは財産の引継ぎもできませんし、いつ何をもって任務終了とするのかがはっきりしない事案でした。相続人がいなかったり、みなさんが相続放棄していたりすれば、相続財産清算人選任の申立てをすることができます。しかし、私のケースでは、相続人と連絡がつかないという理由では、裁判所は相続財産清算人の選任をしてくれませんでした。

Q 将来的にどのような制度になっていくの?

A 直近では、2025年6月10日に中間試案がまとめられ、6月25日からパブリック・コメントの手続が実施されます。中間試案においては、上記①~④の問題点について以下のような内容が検討されています。

 ①法定後見の終了については、判断能力の回復がなくても本人を保護する必要性が亡くなった場合には法定後見を終了すること、法定後見に期間を設けること、②成年後見人等の代理権や取消権については、現行法のように包括的なものとするのではなく特定の事項について個別に付与したり、現行のものよりも何らかの形で狭めたりすること、③成年後見人等の活動については、本人に適時適切な情報提供をしたり本人の意思を把握したりというように、本人の意思を尊重することの内容を明確にすること、④成年後見人等の選解任については、本人の意見をより重視すべきであることを明確にすること、本人の利益のために特に必要がある場合に現行制度よりも広く解任を認めること、などです。今後の動きにも注目していきたいと思います。

(金用大、弁護士、同胞法律・生活センター相談員)

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