〈70年の自負、100年への自信⑦〉朝大を有資格者の育成拠点として
2025年06月23日 10:51 寄稿法律学科の創設と保育士養成
朝鮮大学校は2026年に創立70周年を迎えます。当欄では、大学が歩んできた道のりや現在の教育内容、活躍している卒業生、70周年に向けた取り組みなどを多角的に紹介します。執筆は朝大の教員、関係者が担当します。(月1回掲載)
時代が求める人材
朝鮮大学校は、民族教育の継承と発展を担う人材の育成を使命とし、激動する社会状況の中にあっても、たゆまず教育改革を推進してきた。なかでも、時代に即した有資格者の育成は、変化する社会的ニーズに応える重要な柱となっている。
1990年代、在日同胞社会で民族教育を守るための権利擁護運動が一層活発化する中、法的知識を備えた人材の必要性が強く認識され、法律の専門家育成を求める声が高まった。
こうした要請に応えるかたちで、99年、政治経済学部に法律学科が創設された。総聯の専従活動家を中心に在日朝鮮人運動の要となる人材を輩出してきた政経学部であったが、法律学科の創設は、学部の使命を社会変化の中でより高いレベルで果たしていくための重い決断であった。
学科創設に際しては、政経学部の教員や有識者が、日本の国公私立大学における法学部のカリキュラムを綿密に研究し、民族的課題を反映した独自のカリキュラム編成に取り組んだ。同時に、朝大教員、有資格の卒業生、さらには民族教育への理解と実績を有する日本人法律専門家を招聘し教授陣を構成するなど、ハイレベルな教育体制の整備を進めた。

2019年に法律学科創設20周年を迎えた(写真は記念式典)
実践的、体系的な法学教育
現在、法律学科では憲法・民法・刑法といった基本法科目に加え、国際法・人権法・朝鮮現代法などの応用分野に至るまで幅広い内容を学ぶことができる。
さらに「在日朝鮮人と人権」など、在日同胞の実情に即した独自科目も開講されており、他大学にはない特色ある学びが展開されている。
教育の中核となる主専攻ゼミ(公法・民事法・刑事法)では、法的思考力の養成に加え、法科大学院進学や資格取得を見据えた実践演習(司法演習・行政書士演習など)も行われている。
また、全寮制という環境を活かし、有資格者による夜間学習会や個別指導、特別講義など、学生の多様なニーズに応えるサポート体制が整備されている。
2019年には、法律学科創設20周年を記念して「法律学科学習室」が開設された。学習室には卒業生から寄贈された図書・資料が備えられており、24時間利用可能な自学自習スペースとして学生たちに広く活用されている。
こうした教育体制の成果として、これまでに司法試験合格者31人、司法書士試験合格者13人、行政書士試験合格者30余人など、多くの有資格者が誕生している。
卒業生たちは、朝鮮高級学校の無償化制度除外反対運動、ヘイトスピーチ規制運動など権利擁護活動の最前線で活躍し、各地で同胞の法律問題に寄り添う実務家としてその力を発揮している。
民族教育支える保育専門家
一方、教育学部保育科では、幼児教育の専門家養成に注力し、子どもたちが民族性を育みながら健やかに成長できる環境を支えている。
2年制のカリキュラムは「専門性」と「教養力」の両立を重視し、最新の教育理論と民族的感性を融合させた実践的な教育を展開している。
特筆すべきは、1年次末に開催される「実技発表会」である。
学生たちは約2カ月間にわたりグループで協働しながら、創造力・表現力・協調性を育んでいく。この発表会は、保育者に求められる豊かな人間力を培う場であり、日本社会の中で朝鮮の子どもたちのアイデンティティを支える教育者としての資質を育む重要な機会となっている。
04年に受験資格が認められて以降、05年度より資格取得を目的としたカリキュラムが導入され、12年度以降は保育士試験対策ゼミも本格化。13年度には初の現役合格者が誕生し、以降は毎年合格者を輩出するなど、確かな成果を上げている。
近年、朝大が弁護士や保育士をはじめ、多様な国家資格取得者を輩出してきた背景には、体系的に構築されたカリキュラムと、それを支える教職員・卒業生・地域の強固な連携がある。
朝大は、今後も在日朝鮮人運動と民族教育を支える専門人材の育成に取り組み、教育の力によって同胞社会を支え、民族のアイデンティティを未来へとつないでいく使命を果たしていく所存である
(金幸寛・政治経済学部助教)
朝大卒初の弁護士/法律学科1期生・金敏寛さん

九州無償化裁判の報告をする弁護団の金敏寛弁護士(2016年9月29日)
1999年に新設された政治経済学部・法律学科の第1期卒業生から、金敏寛、裵明玉両氏が朝大卒で初の弁護士となった。
金敏寛さんは在学時をこうふり返る。
「先輩もおらず同期生たちとともに勉強しました。朝大では弁護士になるための勉強法そのものよりも、なぜ弁護士になろうとするのかという目的、どんな弁護士を目指すのかについて学び、それを自らの人生の軸にできたことこそが、私にとっていちばん大きかったです」
その言葉どおり、「高校無償化」九州訴訟の先頭に立ち、「全国」で最大規模となった九州弁護団を結成し、法廷闘争のため奔走した。現在、弁護士としてはもちろん、朝鮮学校と同胞社会のために中央青商会会長として日本各地を駆け回り、文字通り、近年朝大が掲げてきたキャッチコピー「팔방미인형(八面六臂型)」の活躍を続けている。裁判闘争を共にした日本人弁護士の存在など多くの財産を得た一方で、当事者である同胞たち自身がどのような立場に立ち、いかなる実践をするべきかという、同胞コミュニティ内部のエンパワメントのための問題意識が、現在にいたる活動のバックボーンとなっている。
「法律学科卒業生たちが、さまざまな現実とそこでの困難と対峙するなかで、朝大を卒業した際の初志を失わないために何が必要なのか」「朝大で得た学び、受けた恩を、後輩や次世代に引き継ぎ、時代のニーズに合わせて法律学科がさらに前進できるように尽力したい」。朝大創立70周年に向けた、すべての卒業生へのメッセージでもあろう。(英)
―朝鮮大学校で取得できる代表的な資格(学部別)
政経 |
弁護士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、宅建士、ファイナンシャルプランナー、中小企業診断士、公認会計士 |
文歴 | 朝鮮語通訳案内士、ハングル能力検定 |
経営 | 税理士、行政書士、社会保険労務士、中小企業診断士、公認会計士、司法書士、米国公認会計士、宅建士、ファイナンシャルプランナー |
外国語 | 英検、TOEIC/TOEFL/IELTS、漢検、日本語検定試験、文章読解・作成能力検定、日本語教育能力検定、実用フランス語技能検定、中国語検定 |
理工 | ITパスポート ※建築コース |
教育 | 保育士 |
体育 | スポーツ指導者基礎資格、競技別指導者資格、フィットネス資格、メディカル・コンディショング資格、マネジメント資格 ※2021年度から(公財)日本スポーツ協会公認スポーツ指導者養成講習会・試験免除適用コース承認校に |
短期 | 調理師、介護福祉士、ガイドヘルパー、秘書検定、フラワーデザイナー、ITパスポート、日商簿記、情報活用検など |