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〈私が見た朝鮮 8〉ザハール・プリレーピンさん(ロシア)

2025年05月09日 08:00 私が見た朝鮮

最も主権的な国

ロシアを代表する作家、政治活動家であるザハール・プリレーピンさん(49)が4月、モスクワ国立技術大学副学長、ロシア青年・児童協会全国評議会議長であるグリゴリー・ペトゥシコフさん、ウクライナ戦線での従軍経験を持つ退役軍人ドミトリー・コロトフさんとともに朝鮮を訪問した。駐朝鮮ロシア大使館の招待で実現した初訪朝の経験について綴ってもらった。(まとめ・李永徳)▶︎関連記事

左からドミトリー・コロトフさん、ザハール・プリレーピンさん、グリゴリー・ペトゥシコフさん(写真はすべて本人提供)

デマ情報にまみれ

私は朝鮮で1週間を過ごした。この国に深い共感を抱いている人間(私のような者)でさえ、朝鮮に関するリベラル・ブルジョア的なデマ情報の洪水に晒されるのは避けられない。朝鮮の歴史に関する良書を読んだり、現地を訪れた同僚たちから得た合理的な情報に目を通しても、やはり不安は拭えない。飛行機から降りたら、そこには砲弾の跡や、壁沿いにコソコソ歩く市民、粗末なバラック、指導者の肖像画、有刺鉄線が広がっているのではないか、と。しかし実際に目にしたのは、指導者の肖像画だけだった。それも、政府の建物に掲げられているものに限られる。

平壌は驚くほど整備された都市だった。どこもかしこも非常に清潔で、パリやローマのゴミだらけの街とは比べものにならない。最新式の空港、新しいホテル、美しい大通り、高層ビルが立ち並ぶ。こうした都市は、朝鮮国内で平壌だけではないと聞いた。

平壌は驚くほど整備された都市だった

車の数はモスクワより少ない。が、平壌では渋滞も事故もまったくない。すべての車両が新しい。さまざまな種類の車が走り、タクシーがひっきりなしに行き交っている。空港から市内までのタクシー代は10ドル。これくらいの価格であれば、多くの人々がタクシーへの出費が可能だということだ。

朝鮮の車両は個人所有もあるが、大多数は国家から与えられる。アパートは無料で提供され、主に科学者、芸術家、労働者、農民など、長年一つの職場で勤め上げた人々が対象だ。例えば、2階建てのアパートが建ち並ぶ素敵な住宅街を通りかかった時、「ここには誰が住んでいるのか?」と尋ねると、平壌の同僚たちが「名誉ある清掃員、電気技師、その他の職員です」と答えた。

アパートが無料で提供される事実に驚きを覚えた

平壌のレストランは世界トップクラスだ。私は欧米の主要都市にあるほとんどの一流レストランを訪れた経験があるため、よくわかる。スタッフは非常に礼儀正しく、英語もインドのような訛りがないため、かなり明瞭で聞き取りやすい。

金正恩委員長自身がオープンに携わった新しいビアバーでは、極上のビールが楽しめる。大麦と米から作られたビールは泉から汲んだように清らかな味で、25度の米焼酎もある。私は久しく酒を控えていたが、ここでは興味に負けて何杯か飲んでみることにした。驚いたことに、朝鮮のビールと焼酎(ロシア人のように混ぜて飲むのが、かれらの流儀)をたっぷり飲んでも、翌朝は気分が爽やかで頭がクリアだった。

ザハールさん(後列中央)は駐朝鮮ロシア大使館のアレクサンドル・マツェゴラ大使(右横)とも親交を深めた

レストランでは女性バンドが圧巻のライブを披露した。最初の15分は「こんな演奏あり得ない」と疑ったほど見事な腕前だった。最終的に、アコースティックギター、サックス、アコーディオンの前に座り、恥ずかしながら認めた。これは世界でも最高水準のライブ公演だ、と。

かのじょたちは、アメリカのポップミュージックのカバーやソビエト連邦の歌を披露し、最後にはチチェリーナ&ボブンツの「前線で」を演奏した。私は(完全にシラフだったが)涙が止まらなかった。

誰も手出しできない

朝鮮の女性は驚くほど美しい。男性は厳格で規律正しい。

スマートフォンは最新モデルが主流だ。人々は独自のネット環境を使い、敵国の情報には触れない。どれだけ探しても、身なりの悪い人、乞食、酔っ払い、風変わりな見た目の人は一人もいなかった。凶悪犯罪はほとんど発生しない。麻薬や児童性的虐待について尋ねると、地元の人々は「それは何ですか?」と聞き返し、理解すると「なぜそんなものが必要なのですか?」とまた質問してくる。

平壌市内の様子。スマートフォンを使用する多くの人々を見かけた

平均的な結婚年齢は2529歳。離婚率は2~3%で、離婚時は子供は父親が引き取ることが多いと聞く。

ロシア語を学ぶ人が非常に多い。現地の大学を訪れ、ロシア語の授業を見学したが、講義室は朝鮮の学生たちでいっぱいだった。かれらは流暢に、ほとんど訛りなくロシア語を話す。ロシアへの敬意も見てとれた。

平壌到着後、私たち3人は真っ先に祈りを捧げた。朝鮮は中国同様、宗教的な国ではない。正確に言えば、独自の形で宗教的だと言える。祖先崇拝と複雑な伝統信仰の体系が国民に深く根付いている。

左からドミトリー・コロトフさん、ザハール・プリレーピンさん、グリゴリー・ペトゥシコフさん(写真はすべて本人提供)

宗教そのものについては、朝鮮の指導部は抑圧もしなければ、また奨励もしない。国内には仏教寺院があり、平壌の中心部には美しいロシア正教会の至聖三者聖堂(しせいさんしゃせいどう)が建っている。

わたしは朝鮮人の神父と会った。非常に優しく親しみやすい人物だった。教会の最も目立つ場所には、ウラジーミル・プーチン大統領から贈られたイコンが飾られている。礼拝は毎週日曜日に行われる。その後、街で詳しい人に尋ねた。「神父は党員なのか?」「もちろんです」。かれらは平然と答えた。当然のことだ。何が問題なのか?

朝鮮はスターリン時代のソ連の影響を強く受けている。社会主義建設においても同様だ。まるで、1953年のスターリン主義ソ連が、時を止めてしまったかのようだ。ただし止まっているのはスタイルだけだった。朝には精神を高揚させる朝鮮語の歌がスピーカーから流れ、少年宮殿はまさに宮殿そのもの。社会の軍事化が進んでおり、女性は軍務経験者の男性を好むが、正当な理由があれば兵役に就かないことも可能だという。

チュチェ思想塔の展望台から

朝鮮は最新技術の国、驚くほど早いスピードで発展している国だ。世界有数の強大な軍隊(人口2500万に対して150万の兵士)を保有し、科学水準が極めて高い(科学技術はかれら自身のもので、ロシアは長い間、何の援助もしていない)。とりわけ、米国や日本のどこにでも核爆弾を運ぶ能力を持っている。米国も日本もこれを知っている。

誰もこの国に手を出せない。誰もこの国に条件を押し付けられない。

朝鮮が中国に依存していることも、一般的には神話であることが判明した。両国は協力し友好関係にあるが、金正恩委員長は時折、中国が強く反対する決定を下す。しかし、中国側からは誰も何も言ってこない。

これが、地球上で最も主権的で、自給自足を実現している国なのだ。わたしは純粋な驚きと最大限の敬意を持ちながら、それを実感した。

ザハール・プリレーピン▶︎空挺部隊員としてチェチェン紛争に従軍した体験が作風の根幹にある。小説『罪』『病理学』などで文学賞受賞。国家ボリシェヴィキ党の元党首で、反リベラル・反西側の姿勢を鮮明にしてきた。2023年5月にはドネツクとルガンスクからモスクワへ向かう途中で車両爆破テロに遭い、重傷を負った。1ヵ月後、プーチン大統領からロシア最高の栄誉称号「ロシア連邦英雄勲章」を授与された。文学と政治の両面で強い影響力を持ち、現代ロシアの異才と呼ばれている。

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連載「私が見た朝鮮」