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「虐殺はなかった」の論拠を徹底検証/議員勉強会で鄭栄桓教授が講演

2025年02月11日 09:00 歴史 社会

引用文献の故意的な切り取りを指摘

明治学院大学の鄭栄桓教授が講演を行った

6日、参議院議員会館で行われた関東大震災朝鮮人虐殺を検証する有志議員の会の設立総会及び勉強会では、明治学院大学の鄭栄桓教授が講演を行った。鄭教授は、「虐殺否定論」の根拠として国会で取り上げられた工藤美代子の「関東大震災『朝鮮人虐殺』の真実」(産経出版、以下「工藤本」)の論拠を検証。その欠陥と問題性を明らかにした。(高晟州)

「様々な意見」の危うさ

鄭教授はまず、朝鮮人殺害の事実を認めている反面、テロリストの殺害であり虐殺ではないという工藤本の理屈を紹介。そして、出版当時に沸き起こった工藤本への批判を確認し、朝鮮人の暴動というデマを、真実と誤認した当時の新聞記事を引用している点を指摘した。続いて、関東大震災朝鮮人虐殺の歴史的背景(「不逞鮮人」観の形成、在日朝鮮人の増加)と日本政府の認識を概説した鄭教授は、ロンドンで収集したイギリス領事館(横浜)の震災関連史料を基に、工藤本で2カ所引用されている同史料の、致命的な欠陥を明らかにした。

第一に、領事館文書に記された「二人のアメリカ人旅行者の記録」について検証が行われた。鄭教授は、二人のうち一人はジョン・W・ドーティーだとし、かれの報告書と日記を参照。そして引用の際に省略された箇所を指摘しながら、自警団が信じたデマについての言及を略すことで、あたかも暴動が真実であったかのように主張していると語った。具体的には、工藤本は「外国人客も朝鮮人の襲撃に怯えた」としているが、外国人が怯え恐怖した対象は自警団であったと強調した。

第二に、工藤本が引用した在東京イギリス領事代理マクレーの報告では、誤訳により「(原文とは)違う文章になっている」と指摘。鄭教授は工藤本では領事館の情報収集力を引き合いに虐殺を否定しているが、誤訳しているうえに、一部の日本人が外国人を排除する機会を得ていたという本来あった言及を削除していると説明した。そして「(工藤本が)学術的な検証に耐えるようなものではなく、朝鮮人が暴動を企んでいたという結論を導くため、都合のいいように故意的な改ざんが行われた」と述べた。

最後に鄭教授は、公人が「否定論」を「様々な意見」の一つとして扱うことで、学術的と言えない主張に「有力な説」としての地位を与えていると指摘。さらに公人が、虐殺の史実を「論争中」といって責任を回避し続けることは、歴史的事実の消去に繋がると危惧した。

12人の国会議員が参加した

今も残るスパイの言説

勉強会では、講演に関する質疑応答が活発に交わされた後、関係者らが発言した。

杉尾秀哉議員(立憲、同会世話人)は、関東大震災朝鮮人虐殺がイギリス領事館の資料を基に検証され、新たな視点を得ることができたとしながら、日本政府が一貫して虐殺への見解を明確にしない背景について質問した。

鄭教授は、戦後処理の不徹底さを指摘したうえで「近年は、加害の歴史を問うこと自体を一種の外交戦と捉えている」とし、「この政治的な特徴の論理はスパイの言説であり、『朝鮮人が混乱に乗じて暴動を企んでいる』といった関東大震災朝鮮人虐殺時のロジックと似通っている」と説く。また鄭教授は、それは「否定論」にも通ずることだとしながら「加害の歴史を消すだけではなく、被害にあった民衆を加害者化しようとするのは深刻な人権侵害だ」と述べた。

勉強会に参加したフォーラム平和・人権・環境の藤本泰成顧問は、「日本社会が植民地主義をどのように乗り越えていくのかと捉えていくべきだ」とし、「朝鮮半島と日本の歴史問題を乗り越えて、東アジアでの新しい時代を拓いていきたい」と語った。

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