〈トンポの暮らしを支える/こちら同胞法律・生活センターです!55〉在日同胞の離婚手続きについて②
2025年02月10日 08:00 寄稿前回は朝鮮籍同士の離婚手続に関して解説しましたが、今回は韓国籍同士の離婚手続に関して解説します。
Q1 私(韓国籍)は、夫(韓国籍)と結婚して10年がたち、6歳になる子どももいますが、夫が子育てに非協力的でモラルハラスメントも激しく、離婚したいと考えるようになりました。私たちのような在日同胞の離婚手続は、日本人の場合と比べて違いがあるのでしょうか。
A1 離婚のような身分関係に関する法律問題について当事者に外国籍者が含まれる場合、日本の法律ではなく当事者の「本国法」が適用される場合があります。
離婚する夫婦の本国法が同一の場合はその法が適用されるルールになっており(法適用通則法27条本文、25条)、質問者の場合は夫婦の双方が韓国籍とのことですので、その離婚に関しては韓国法が適用されます。
Q2. 韓国籍同士の夫婦の場合、役所に離婚届を提出するだけでは離婚できないと聞きました。本当でしょうか。
A2. 韓国籍同士の離婚については韓国法が準拠法となるので、以下では韓国法にもとづく手続についてご説明します。
日本法では、夫婦が署名した離婚届を役所に提出すればただちに離婚が成立します。しかし、韓国法にもとづき協議離婚をする際には、離婚届を提出する前に「意思確認手続」を経なければなりません。この手続は日本法にはない韓国法独自のもので、時間や手間がかかる場合があり注意が必要です。
韓国法では、協議離婚をしようとする者は、まず家庭法院で離婚に関する案内を受け、その後一定の期間(「熟慮期間」といいます。通常は3カ月、養育しなければならない子がいない場合は1カ月です。)が経過した後に、改めて家庭法院に出頭し裁判官から離婚意思の確認等を受けます。そして発行される意思確認証明を添付することで役所に離婚申告を行うことが可能となります(韓国民法836条の2)。
日本に住む在日韓国人の場合の意思確認手続はソウル地方家庭法院が管轄しますが(韓国家族関係登録法75条1項但書)、その申請窓口は最寄りの韓国領事館・領事部になります(同登録規則75条)。
具体的には、離婚をしようとする韓国籍夫婦は、夫婦の住所地を管轄する韓国領事館に出頭し、家庭法院の離婚案内に代えて離婚に関する案内書の交付を受けます。この際、離婚意思の確認や親権者の決定に関する事情聴取が行われ、内容をまとめた陳述要旨書などの書類が作成されてソウル家庭法院に送付されます。
ソウル家庭法院では、案内書交付の日から3カ月または1カ月の熟慮期間の経過後に、離婚意思確認証明書を作成します。なお、この離婚意思確認が終了するまでは離婚意思確認申請を取り下げることができます。
この離婚意思確認証明書は、日本の韓国領事館に送付された後に対象の夫婦のもとに交付・送達されますので、これを添えて領事館に離婚届を提出します。意思確認を経た後の離婚届の提出は夫婦の一方だけで提出が可能です。領事館から在外国民家族関係登録事務所に離婚届が送付され、これが受け付けられることでようやく協議離婚が成立します。
Q3. 領事館での意思確認手続を経ないで、直接日本の役所に離婚届を出すことはできないのですか。
A3. 意思確認手続を経ないで日本の役所に離婚届を提出した場合、その離婚は韓国法上は無効です。
韓国の大法院は、さきほど述べた意思確認手続を、離婚の「方式」の問題ではなく「実質的成立要件」の問題と解釈していますので、意思確認手続を経ない離婚は要件を欠く無効のものと判断されるのです。
一方で、日本の戸籍実務は、「意思確認手続は単なる方式の問題なので日本での方式に従って提出されれば有効」という考え方に立っており、これまでも、韓国籍夫婦から家庭法院等の確認を経ないで提出された協議離婚届も受理するという取扱いが行われてきました。ただし、2004年に法務省から、在日韓国人夫婦からの協議離婚届を受理せざるをえないものの「当該受理をもっては韓国法上、協議離婚の成立は認められないことから、在日韓国人夫婦の協議離婚につき相談等があった際には、相談者に対し…在日韓国大使館等に問い合わせるよう対応する」との事務連絡が出されています(平成16年9月8日法務省民事局民事第一課補佐官事務連絡)。
このように、仮に意思確認手続なしに日本の役所に協議離婚を提出し受理されたとしても、韓国法上は無効ですし韓国の家族関係登録に離婚を反映させることもできません。
Q4. 夫が「離婚届にはサインするが領事館には出頭したくない」といって意思確認手続に協力してくれません。どうすればよいですか。
A4. 夫が意思確認手続に協力してくれない場合は、代替措置として、日本の家庭裁判所で調停離婚をすることが考えられます。
韓国領事館では、日本の裁判所で調停手続を経て調停離婚が成立した場合は、実質的には意思確認等がなされているものとみて、離婚届を受理する扱いとなっています。この場合、韓国領事館に離婚申告書とともに調停調書の原本と翻訳等を提出して離婚申告を行います。必要書類等は韓国大使館のウェブサイト(日本語ページあり)で確認できます。
ただし、昨今は日本の家庭裁判所も事件過多等の理由で処理が遅れる傾向があり、調停申立から実際に調停が成立するまでは少なくとも数ヵ月がかかることが多いでしょう。また、調停は双方の合意で進める手続ですので、相手方が出頭しなかったり、離婚に応じない場合には手続は進められません。
相手方が、領事館での意思確認手続にも、日本の家庭裁判所での調停手続にも協力してくれない場合は、離婚裁判を提起して離婚を実現するしかありません。
■2回にわたって在日同胞の離婚手続に関して解説しましたが、どちらも夫婦の本国法が同一の場合でした。それ以外の朝鮮籍・韓国籍カップルの場合や朝鮮籍・日本籍カップルの場合などにどの国の法律が適用されるかは、個別のケースによって結論が変わる可能性がありますので、センターの専門家にご相談することをお勧めします。
(李春熙、弁護士、同胞法律・生活センター相談員)