〈山口・長生炭鉱水没事故〉国が主導し遺骨収集を/市民団体、国側と面会
2024年11月07日 14:42 歴史 社会太平洋戦争中の1942年2月3日、山口県宇部市床波の海底炭鉱「長生炭鉱」で水没事故が発生し、坑道で作業中だった朝鮮人136人など計183人が犠牲者となった。今年9月に坑口(炭鉱入り口)跡が見つかるなど市民らによる真相究明の動きが進む中、その活動の中心にいる地元の市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(刻む会)のメンバーらは6日、都内で厚生労働省、外務省の担当者らと面会した。刻む会側は、坑内の調査および遺骨収集など、国が主導し問題解決に努めるよう求めた。
面会には、刻む会共同代表の井上洋子さんが参加し、国側からは厚生労働省人道調査室(民間徴用者遺骨問題担当)、外務省の担当者らが応対した。また社民党の大椿裕子参院議員らが同席した。
面会後、都内で記者会見が開かれた。
会見によると、井上さんは面会の場で、坑口が開き、2度の潜水調査が行われるなど、昨年12月の交渉時とは大きく変化した現況について説明。福岡資麿厚労相に対し、国が主導する遺骨収集を改めて要請し、その費用として「戦時中に徴用された朝鮮半島出身者の遺骨返還」のために、人道調査室が計上している年間約1千万円の予算を充てるよう求めた。
会見では、5日の福岡資麿厚労相による会見についても言及があった。井上さんは、場所の特定が困難であることや日本人の遺骨と混在していること、坑道の安全性が確認できないことを理由に、福岡氏が、国による調査の意思はないと示した点を非難した。
当該会見で、福岡氏は、2005年の日韓協議における合意(「遺骨の所在が明らかになった寺院等に実際に赴き、関連情報に関する調査を行う」)について言及し、国による実地調査は「外交上の観点」から実施していると説明。長生炭鉱など「今次の大戦により死亡した方(戦没者)ではない方の遺骨の調査、収集は現時点で困難」だとの立場を示した。
会見では、戦没者でない場合、政府が遺骨の収集や返還は困難だとしている点について質問された。
井上さんは「戦没者というのは、日本政府が勝手に線引きしたうえでつくられた概念だ」と述べ、大椿議員も「戦時中、強制労働をさせられた方々はある種の戦没者ではないか。そう認識を変えていくよう迫っていく」と述べた。また面会について同議員は、国の担当者からは明確な返答はなかったものの、状況が変わったことは認識しているだろうと発言した。
刻む会と共に会見に臨んだ鄭歩美さんは、長生炭鉱で犠牲となった權道文さん(享年45)のひ孫にあたる。鄭さんは「刻む会の方々には死者の弔いだけでなく、私たち一族の自尊感情の回復という深い次元でお世話になっている」と謝意を示したうえで、「皆さんの力添えが必要不可欠だ」と述べ、社会的な関心の必要性を訴えた。
10月29,30日の2日間にかけて実施された潜水調査では、かねてから憂慮されていた土砂の堆積で侵入できないなどの実態はないことが確認されている。刻む会によると、調査では、潜水後に約200㍍を進んだが、さらに100㍍ほど進んだ場所に遺骨がある可能性が高いという。次回潜水調査は1月31日から2月2日を予定している。
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会見中、登壇者たちに寄せられた質問の多くが、日韓両政府の反応や求められる対応についてのものだった。また議員からも「正直なところ、まだ朝鮮へのアプローチまで考えが至っていない」との声があがった。しかし長生炭鉱に関する問題は、日韓の政治問題として収斂されてはならないだろう。
改めて確認したい。1942年時点で、朝鮮半島は日本の植民地支配下にあり、朝鮮半島の全土から日本への強制連行や徴用がなされた。長生炭鉱では、そうした歴史的背景のもとで、慶尚道、忠清道、全羅道、江原道といった半島南部の出身者と共に、半島北部である平安道から出向いた労働者も犠牲になったことが確認されている。そうした遺骨や遺族に向き合うとはどういうことなのか、真の問題解決と究明について、今一度考える必要があるだろう。
朝鮮半島北部出身犠牲者の遺骨奉還と関連し、井上さんは「いまの難しい状況の中でどのように朝鮮へアプローチすればいいのかという課題がある」と話す。「今後もあきらめず、なるべく南北の足並みを合わせて解決へと進めていきたい」。
(韓賢珠)