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〈続・歴史×状況×言葉・朝鮮植民地支配と日本文学 68〉田宮虎彦「朝鮮ダリヤ」

2024年07月06日 06:00 寄稿

反省と責任をせまる回想物語

田宮虎彦の代表作「足摺岬」(1947)を最近再読し、あらためて力作だと感じた。戦前日本、孤独な知識人の暗く希望のない青春。足摺岬へと自殺行する主人公に、死を踏みとどまらせた出会いの物語。明治の戊辰戦争における多数の死から、アジア太平洋戦争が強いた無駄死にに至るまで時代をまたぎ、運命に翻弄された人々の絶望と生死のめぐりを、戦後の虚無感のなかに、暗く、だが清冽な叙情とともに、軍国主義への痛憤と抗議をこめて書いた。

『新日本文学全集24 田宮虎彦集』(集英社、1963年刊)

その田宮は「足摺岬」に続き、朝鮮戦争を意識しつつ、「幼女の声」(1950)や、そして今回紹介する「朝鮮ダリヤ」(51)という作品で朝鮮、朝鮮人を描いている。

「朝鮮ダリヤ」は田宮の自伝的短編で、中学生時代の朝鮮人との出会いおよび苦く痛ましい交友のなれの果てを描いた。1920年代半ばの神戸を舞台に、クラスメイトになった数歳年上の呉炳均とその妹、呉淑春の回想物語だ。

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