〈続・歴史×状況×言葉・朝鮮植民地支配と日本文学 67〉薩摩焼と司馬遼太郎
2024年06月09日 06:00 寄稿真に「忘じがたい」歴史から見れば
1592年から98年にかけた、豊臣秀吉による二度の朝鮮侵略(壬申・丁酉倭乱)の際、九州・山口地方の諸大名たちによって拉致連行された朝鮮人陶工たちにより、萩焼、上野焼、高取焼、唐津焼、有田焼、薩摩焼などが興った。当時東アジアの一大戦争とその特需による最先端技術の移入は、窯業を飛躍的に発展させる技術革新を日本にもたらした。
島津義弘軍により薩摩の地に連行された朝鮮陶工たち、中でも苗代川に集住し薩摩藩の手厚い保護のもとで朝鮮の姓名と風俗を保持されながらこの地に400年以上深く根付いて、薩摩焼を継承してきた沈家一族。現在15代目となる当主沈壽官氏を中心としたドキュメンタリー映画『ちゃわんやのはなしー四百年の旅人』(松倉大夏監督)が、この5月から順次全国公開中である。映画は、沈壽官氏の人となりに密着し、その来し方を通じて、当主を引き継ぐ苦労や葛藤、焼き物文化を通じた韓日交流の歴史と功績、窯業の継承と親子の相克について描いており、沈氏の人間的魅力とともに味わい深いものがあった。