〈朝鮮民族の美 53〉鄭●(善に攵)「長安寺飛虹橋」(海嶽伝神帖より)
2013年05月01日 09:47 文化・歴史前回の「金剛全図」のいちばん左下に小さく描かれていた長安寺と、その前の飛虹橋を主題として描かれたもの。鄭●(善に攵)はこの場所が好きだったようで何点も同じ画題で描いている。
金剛全山の水が集まる所として大事に思ったのか、寺の前にかかる大きく華麗な太鼓橋や長安寺を愛でたのであろうか。
ここは金剛山に入山する入口の役割をはたし、北漢江の上流となる金剛川を見通して、金剛山の両翼をなす陰・陽の山々を一望できる場所として重要な役割を担っている所である。
鄭●(善に攵)は39歳となる1714年、当時詩人として有名な李秉淵(1671~1751)の招待を受け、3月に現地に到着したという。川にかかる橋の高さは300尺(約90m)といわれ、ここから眺める右側の白い岩の峰々は、あたかも金剛の柱のように東北の空にそびえ、これに対する左側の土山の樹林と陰陽の対比をなしており、これを明確に自覚している鄭●(善に攵)ならではの画面構想である。
彼は右側の鋭く白い岩の峰々を鋭角垂直皴(ひ)法で描き、左の針葉樹林の山々は太く横長の墨点を幾重にも重ね、かつ縦に一本ずつ黒い線を引いて一株の木として樹林としたのだ(扁点樹法)。そして遠景の林は、米粒のような黒点を横に引き木立としたのである。ただ、寺の境内の枝を拡げた欅(けやき)の木のみが一輪の花のような風情をなしているのが面白い。(金哲央)