〈まるわかり! 法律で知る朝鮮6〉代議員選挙法から見る朝鮮社会の実情/李泰一
2024年01月12日 08:30 寄稿修正・補足の背景と意義
■はじめに
周知の通り、2023年は、朝鮮の国力と国威が輝かしく発揮された「偉大な転換の年」「偉大な変革の年」となった。多くの論者が、その具体的例証として、経済部門、とりわけ農業部門及び建設部門における驚異的な成果や、偵察衛星打ち上げ成功などの不可逆的な軍事技術的強勢を成し遂げた成果、金正恩総書記のロシア訪問などによる反米戦線構築の成果をあげている。しかし筆者は、それに加えて代議員選挙法の修正・補足(最高人民会議常任委員会第14期第27回総会、2023年8月30日)による人民主権強化の成果についても必ず言及すべきだと思う。なぜならば、人民主権の盤石化を図ることが社会主義全面発展の前提条件になるからである。
そのような意味で、2023年の諸成果の中でも、人民主権の盤石化を図った代議員選挙法の修正・補足の意義は非常に大きい。本稿では、本法の修正・補足の背景とその意義について、解説を試みようと思う。
■人民政権のさらなる強化
代議員選挙法の修正・補足の背景は第一に、現在、社会主義の全面発展期の要求に応じて代議員の政治意識における覚醒が要求されているという点だ。
金正恩総書記は、民心を何よりも大事にする。なぜならば民心を失った瞬間、朝鮮労働党も社会主義も存在しえないからだ。実際この数年間、労働党は政治活動家たちが政治的感受性を持って人民たちが何を望んでいるのかについて常に考え、人民のための活動を行うよう強く促してきた。人民によって選ばれた代議員たちも同様だ。そして、社会主義の全面的発展期に突入した今日の状況に見合う選挙制度の構築が求められた。
第二に、そのような代議員が、国家と人民が付与した神聖にして責任ある位置を自覚し、高い政治意識と創意性を発揮するようにするうえで、選挙方法を改善することが求められたという点だ。
民意をより正確に汲むためには、代議員候補者をしっかりと吟味し、その資格があるかを検討する必要がある。党中央委員会第8期第8回総会(23年6月16~18日)の報道によれば、「新しい代議員選挙方法に対する研究は、勤労者大衆が国家と社会の真の主人としての責任と権利を十分に行使し、中央集権制の原則に基づいた民主的選挙制度をいっそう強固にし、発展させる方向で行われ、総会ではこれに関する解説がなされた」とのことだ。代議員たちが、自分たちを直接選出してくれた人民たちの想いを胸に、政治活動を常に行うよう、本法の修正・補足を断行したといえよう。
以上、本法の修正・補足は、「すべてを人民大衆のために、すべてを人民大衆に依拠して!」という人民大衆第一主義政治理念を具現するにおいて、重要な地位を占め役割を担う代議員たちの覚醒を通じて、人民政権のさらなる強化を図ることに目的がある。
■何が修正? その意義は?
本法は、第1章「選挙法の基本」(1-6条)、第2章「議員定数と選挙日時」(7~11条)、第3章「選挙区」(12~17条)、第4章「選挙委員会」(18~26条)、第5章「選挙者名簿」(27~34条)、第6章「代議員候補者」(35~47条)、第7章「選挙宣伝」(48~53条)、第8章「選挙場」(54~58条)、第9章「投票」(59~68条)、第10章「投票結果の確定」(69~76条)、第11章「再選挙と補充選挙」(77~82条)、第12章「申書(請願書)処理と制裁」(83~86条)の12章86条で構成された代議員選出のための手続法であり、日本でいうならば公職選挙法にあたる。
今回の修正・補足の内容は、①代議員選挙のための選挙委員会の組織原則、②代議員候補者たちに対する推薦及び登録、③選挙宣伝、④投票及び登場結果の確定、⑤禁止事項に関連する内容などであるが、その核心内容は第6章の代議員候補者の部分であろう。
本法によれば、選挙の流れは、①代議員選挙の実施を決定、②選挙委員会を組織、③全国に選挙区・選挙分区を組織、④選挙区・選挙分区ごとに選挙委員会を組織、⑤選挙者名簿公示、⑥選挙者会議で代議員候補者に対する資格審議、⑦選挙区ごとに代議員候補者1人を登録、⑧代議員候補者を公示、⑨選挙、⑩集計・公表となっているが、第6章の部分は、⑥の部分である。修正・補足によって、従来は、代議員候補者1人に対して資格審査を行い、候補者を確定・登録していたが、修正・補足後は、「選抜指標対象を選挙する選挙区」では、推薦された候補者2人に対して得票が多かった者を候補者として登録すること、そして、得票数が同数の場合は、選挙者会議にすべての選挙者たちが参加し、投票を追加することになった(※「固定指標対象」を選挙する選挙区では従来通り)。
選挙人に対し、候補者1人への賛否を問うという形から、2人に対して問うという形へと移行されたことは、選挙人自身への意思決定を迫るという主権意識の高揚をもたらしたに違いない。一言で、修正・補足された内容のポイントは、選挙者会議において人民たちが、定数より多い代議員候補者の経歴や実績を聞いて実際に候補者として登録するかどうかを判断するというシステム、要するに、人民参与型の選挙制度がリニューアルされたことだ。
修正・補足後、初めて行われた道・市・郡人民会議代議員選挙(23年11月26日)の模様については、内閣機関紙・民主朝鮮が詳細に伝えている。同紙は、代議員候補者の資格審査のための選挙者会議の光景について伝えたが、「今回のように、会議への参加熱意が高かったことは今まで一度もなかった」という選挙人のコメントを紹介している。
国政の主人として主権を堂々と行使する人民、そして、その人民の代表として選出された代議員としての責任と役割を「責任・倫理規範」として深く自覚する代議員という関係が明確に打ち立てられたことの意義は非常に大きいと言える。
(朝鮮大学校政治経済学部学部長、教授)