〈関東大震災朝鮮人虐殺100年〉美術に込める次世代の思い
2023年12月01日 08:00 歴史現代に影落とす過去、変える主体に
死者・行方不明者数10万人を超える未曾有の大災害であった関東大震災。当時、日本政府は地震発生から2日で戒厳令を敷き、その翌日、「放火」や「爆弾所持」といったデマと共に、朝鮮人の行動を取り締まるよう指示する電文を各地に垂れ流した。後の朝鮮人に対する殺傷行為は、この国家主導のデマにより「正当性」が担保され、多くの同胞たちが異国の地で、天災ではない人の手で殺され命を落とした。
日本の国家責任が問われぬまま迎えた震災100年目の今年、各地では、さまざまな個人や団体が、関連イベントを催している。
先月には、東京中高の美術部と朝鮮大学校教育学部美術科の学生たちによる企画展「100年のRe-vive」×「光景」が、東京都墨田区のすみだ向島EXPOで開催された。
閑静な住宅街に佇む、民家等を会場に行われた同展。最終日には、生徒・学生たちによるアーティストトークも行われ、多くの来場者でにぎわった。
今回の合同展は、朝大美術科で、学内展示を目的とした展示会を企画し、作品制作を進めていた際、東京中高の生徒らが関東大震災をテーマに企画展を準備していることを知り、共同開催に至ったという。2つの展示は、「関東大震災」を共通テーマとするが、その細部は若干異なる。朝大生らの展示は、現代によりフォーカスしたもので、「戦後に続く負の歴史」や、「日本の経済発展の裏側に潜む問題」など、関東大震災100年という節目に、いま起きている社会問題を掘り下げようという試みだ。
会場を周りながらアーティストトークが行われる中、本会場の並びにある空き地(別会場)に移動すると、木で組み立てられた小屋のような展示物が2つあった。中心にはそれぞれ針金を球形にしたものがある。「時を繋ぐ眼」(姜泰成、金時星制作)だ。
朝鮮大学校研究院予科2年の金時星さんは、今回の作品がなぜ「眼」をテーマにしたのかと観客から問われ、「私たちが見ているこの眼が、私たちを見ている眼だと考えるとどうか」と応答した。そのうえで、関東大震災から100年を迎えた社会を監視している眼でもあると補足し、「過去を見つめて未来に繋いでいくことが大事だと思う。観てくれた一人ひとりが、どういう眼なのかを想像してほしい」と語った。
朝大美術科1年の姜叡心さんは、出身地である茨城の鉱山労働に従事した同胞犠牲者らを思い、作品「哀号(あいごう)」を制作した。かつて日本国内最大の銅生産地だった日立鉱山で、「4千人を超える朝鮮人、中国人が働いていたという事実を目の当たりにした」という姜さん。なかでも、そこで働いていた労働者たちが、逃げる際の目印であった一本杉の下で、警察に捕まりリンチされたという証言や資料に触れた経験が、制作背景にあったという。
「命からがら逃げだしたのに、見せしめとしてリンチされた先代たちの絶望感を想像しながら作品を描いた」。「哀号」とは、悲しい叫びをあらわす朝鮮語の感嘆詞だ。姜さんは、「現在、日立鉱山の記念館には朝鮮人や中国人に関する記載が一切ない。関東大震災時の虐殺だけでなく、歴史の陰の部分に向き合うことが、市民たち同士の友好にもつながり、歴史の豊かな理解につながるはず」と力を込めた。
大人たちへのまなざし
今回の企画展にあたり、生徒・学生たちは、キーワードをネットで検索したり、資料や書籍を読んだり、映画を見に行くなどして関東大震災への問題意識を深めていった。そうした制作のための準備過程を通じて、「遠い話」だった関東大震災という史実が「知るべき事実」として、かれらに接近していた。