短編小説「百日紅」 26/クォン・ジョンウン
2023年11月23日 09:00 短編小説列車は疾風のように走り過ぎながら、クムニョとヨンホに強い風を吹きつけた。
汽笛の音はながい余韻を残しながら、禿魯江の水流にそそぎこむ多くの谷川の流れの中に消えて行った。それはまるで、間もなくやってくる黎明を告げるかのようであった。
クムニョの胸は喜びにふるえていた。四肢がおどるかと思われた。
彼女の両頬にはふたすじの熱い涙が伝った。涙を拭おうともしないで、彼女は列車が過ぎ去ったかなたをじっと見つめていた。ふと、いつか夫から聞いたことばが思い出された。
「軍事境界線の鉄条網を引き裂き切断された鉄路がつながったら、二人でそこに行ってこの青い旗をふろう。ぼくらがつぎに引越す場所はそこなんだ」
ふたたび山の向こうから汽笛が聞こえてきた。重いその響きは大気をふるわせながら果てしなくこだました。
クムニョは手をさらに高くあげて、両足に力をいれた。
小旗がハタハタとはげしく鳴った。
クムニョの衣服も風にひるがえった。