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〈読書エッセー〉晴講雨読・解放直後の「一般科学」の参考書/任正爀

2023年10月25日 08:00 寄稿

今年6月、国際高麗学会日本支部主催のシンポジウム「アーカイブのなかの在日」に参加した。国際高麗学会はその名が示すように統一を志向する学術団体で、平壌やソウルにも支部がある。アーカイブは保存記録、書庫を意味するが、シンポジウムでは在日韓人歴史資料館、大阪コリアタウン歴史資料館、ウトロ平和祈念館、そして朝鮮大学校朝鮮問題研究センター・在日朝鮮人関係資料室の関係者が、それぞれの施設の役割と活動について紹介し質疑応答が行われた。朝大からはセンター長の金哲秀教授が登壇し、所蔵資料の特色と共に、とくに研究者に便宜を図ることが重要な役割であると強調した。

さて、朝鮮大学校に朝鮮問題研究センターが設立されたのは2012年で、10年以上が過ぎた。文字通り朝鮮研究の拠点としての役割を果たしているが、なかでも在日朝鮮人関係資料室は多くの研究者が利用する。資料室には在日朝鮮人関係の文書、パンフレット・ミニコミ誌、新聞・雑誌、ビラ、単行本、写真など約1万点の資料が収蔵されているが、その半数は民族教育関係資料が占めている。とくに解放直後に在日本朝鮮人連盟(朝連)が刊行した教科書・参考書などは貴重である。

『一般科学Ⅰ』(翻刻版)

ある時、資料室所蔵の朝連結成から1950年3月までの朝鮮学校教材リストを眺めていたら、教師用参考書と分類された『一般科学Ⅰ』に目が止まった。解放直後に在日1世たちがもっとも力を注いだのは子弟たちの教育であり、国語や算数などの教科書が刊行されたことは知っていたのだが、自然科学の参考書も含まれていたとは。

すぐに資料室に出向きその本を確認したのだが、当時としてはしゃれた装丁の立派な書籍で保存状態も悪くない。金哲秀教授によれば、朝連教材編纂委員会の責任者であった李珍珪先生が所蔵していたものらしい。ゆえに、鉛筆で書き込まれた漢字もおそらく李珍珪先生の直筆ということである。李珍珪先生は朝鮮大学校学長、総聯中央第一副議長を歴任された人で、温厚な人柄で人望も厚かったと聞く。解放直後は朝連の活動家として、教育関係の仕事をされていた。

奥付をみると1946年にソウルの「朝鮮教学図書株式会社」から出版されたものを、47年に朝連文教局が翻刻出版したものであった。今から75年ほど前のことである。

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