【連載】光るやいのちの芽~ハンセン病文学と朝鮮人~⑦
2023年06月29日 09:00 歴史【連載】「光るやいのちの芽~ハンセン病文学と朝鮮人~」では、創作を通じ希望や連帯を希求し、抵抗としての文学活動を展開した朝鮮人元患者らの詩を復刊した詩集「いのちの芽」から紹介していく。(書き手の名前は詩集に掲載された日本名表示のママ)
国本昭夫 1926年・朝鮮全羅南道生まれ。4歳の時に日本へ渡り、41年に多磨全生園に入園。43年に故郷に戻るが、その後再入園。50年に詩誌「灯泥」創刊。
街
街角でいつも悲しい歌をさも悲しげにうたう、
ヴァイオリン弾きのおじさんがいた。
いつも暗いはかない歌を、歌っていた。
私はその後姿を黙って見送っていた。
友達とつまらなく眺めたりした事もあった。
しかしある日暮れ
私は愛情のない家にたまらなくいやになった時、
ヴァイオリン弾きのおじさんを探して歩いた。
私がだまって悲しげにひくヴァイオリン弾きを見て
この悲しさは私だけが知っているような気がした。
私も大きくなったら、
こんな人になるのだろうかと思ったりした。
灯のついた街で
私はひとりぽっち家にかえらない時であった。