〈学美の世界52〉アップデートされる表現/河美香
2023年04月26日 12:00 文化学美は回を重ねるごとに、表現方法、表現媒体がどんどんアップデートされている。それは絵画作品にとどまらない。立体作品は材料も規模も多彩になり、写真作品、映像作品と多種多様になっている。一つの展覧会で、これほどありとあらゆるジャンルを鑑賞できる展覧会はないのではなかろうか。
このような場を設けることができるのも、子どもたちがのびのびと創作活動に専念できている証拠であり、多様な表現方法を受け入れ、最後までやり遂げられるよう導くため、子どもたちに真摯に向き合う美術教師の並々ならぬ努力の証とも言えよう。
特に、美術部の生徒たちは、中級部、高級部問わず、毎年さまざまな形で作品をぶつけてきてくれる。筆者も元・美術部員として、自分だけの表し方に出会い、堂々と発表する子どもたちがとても羨ましく、眩しく思う。同時に、そんな子どもたちを導く者として、かれらの勢いに吹っ飛ばされないように、勉強に勤しむ日々だ。
作品1では、ミシンの針を走らせ、どんどん出来上がっていくドレスにワクワクする作者の姿が、目に浮かぶ。
洋服、それもドレスを作ることは容易ではないのに、手が不自由な人でも着やすいように、ファスナーやマジックテープを採用し、誰もが着やすい形に仕上げた。深い緑と黒の落ち着いた色合いもシックに、機能面とデザイン面にこだわりを持って仕上げている。
構想から生地選び、裁断、縫製までやり遂げた作者の根気を称えるとともに、次回作に期待が高まる。
作品2はプログラミングを駆使した作品で、赤いセル(一つの単位)が青いセルを食べ、青いセルが緑のセルを食べ、緑のセルが赤いセルを食べ…と、赤、緑、青の蟻が縦横無尽に動き回り、互いに陣地を拡大させようとする攻防戦が繰り広げられる。その軌跡が複雑な模様となっていくのだ。
まるで、シャーレの中で培養される菌の爆発的な成長のようでもあり、見るものを釘付けにする。3色の織り成す模様は毎回違うという。一つとして同じ模様ができない面白さと、プログラミングと芸術の繋がりの可能性を見出した、作者の視点が輝く作品だ。
作品3は、機械と人間が共存する世界を、3次元のCGアニメーションを制作するソフトを使用して作り上げた。鑑賞者はコントローラーを使って、世界を散策できる。
細部に宿る機械の光と、滑らかで少し冷たそうな質感、そして入り組んだ街並みが美しい。遠い未来、もしくは近いうちに、本当にこんな街並みができるだろうかと、まだ見ぬ世界に思いをはせることができる。
学美では近年、既存のゲームを利用し、その中に一つの世界を作り上げ自由に散策できるという作品が出品され、巡回展会場で人気を博していた。しかし、この作品はそれをさらに上をいく、一から作り上げた世界である。惜しいことに巡回展での展示は、ダイジェスト映像での展示にとどまったが、実際に自由に散策できたならば、きっと子どもたちは目を輝かせて見入っていたに違いない。
幼い頃からメタバース(仮想空間)に慣れ親しむかれらにとって、自己実現の場は現実世界だけでは足りない。もっともっと広い世界が必要なのである。
(在日朝鮮学生美術展中央審査委員・埼玉初中美術教員)