〈ものがたりの中の女性たち65〉醜い春香から美しい春香へー「薄色春香説話」
2023年02月27日 09:00 寄稿あらすじ
春香は官妓月梅の娘で、醜い容貌のせいで30歳を越えて未婚である。ある日、川で洗濯をしていると、南原府使の子息である李道令(若様)を見かける。名は蒙龍である。その後、恋煩いで寝込むようになった娘を案じた母月梅は、李道令を廣寒樓に誘い出すよう房子(下男)に命じる。月梅は婢香丹を美しく着飾らせて李道令の元に送り、酒を勧め酔わせた後で自宅に連れ戻り、春香と枕を共にさせる。ところが目を覚ました李道令が隣に寝ている醜い春香を見て驚く。部屋の外で待っていた月梅は、出てきた李道令に「情標」を残していくように言う。言われるままに彼は、持っていた絹の手ぬぐいを袖から出して渡す。
その後、李道令は父と共に漢陽へ旅発つ。春香は彼を待ち続け、ついには情標の手ぬぐいで首を吊り廣寒樓でこと切れる。村の人々は彼女を哀れみ、李道令が去った峠に彼女を埋葬する。その後、南原では三年もの間干ばつが続き、村の男たちがばたばたと倒れ、生まれた赤子も例外なく男の子だけが息を引き取るという禍に見舞われる。赴任してくる南原府使も一日と持たずに死んでしまう。村中の者達が春香の祟りだと噂し、当時の吏房が「美しい春香」のものがたりを書き彼女の霊を慰めると、それ以来怪異が起きることはなくなる。恨みを抱いて死んだ春香は怨鬼になったのだと人々は噂する。
第六十五話 春香傳外伝
「春香(チュニャン)傳」は特定の個人の創作ではなく、口碑伝承、すなわち口伝の説話や伝説を通して形成された、民衆の「共同作業」ともいえる作品である。