短編小説「鉄の歴史」20/ビョン・ヒィグン
2023年02月02日 09:00 短編小説吹雪のはげしい晩のことだった。
この日も労働者たちは、徹夜で作業を進めていた。
夜半の1時も過ぎたころ、ウンチルは若い労働者たちといっしょに炉の壁につかう耐火れんがを運んでいた。そこへ工事指導部長がかけつけてきて、将軍から電話がかかってきたと告げた。
予期だにしないことだった。ウンチルはあわてて事務所へかけつけた。かれはおずおずと受話器をとった。
「将軍さま、パク・ウンチルでございます。」
聞きなれた将軍の声が受話器にひびいた。
「ウンチルトンム、ずいぶん苦労していることでしょう。おりを見て、いちどそちらへ出向くつもりでいたのですが、なかなか思うようにいきません。そちらの状況については工場の指導部をつうじて聞いております。仕事は順調に進んでいますか?何か提起したい問題などありませんか?」
「将軍さま、このあいだお願いしましたことは、おかげさまですっかりうまくゆきました。ほかには何もございません。作業は計画どおり、うまくいっております」
「トンムたちの健康はどうですか?病人はいませんか?」
「はい、みんな元気でございます」
「最近は、とくに寒さがきびしいようですから、からだには十分注意してください」
「将軍さま、ありがとうございます」
ウンチルは声をうるませていた。
「ウンチルトンム、今、国中がトンムたちの作業に注目しています。その炉から鉄が流れ出る日を一日千秋の思いで待っているのです。どうですか?トンムたちが決意した日までにできますか?」
「はい、できます」
ウンチルは確信にみちた声でこたえた。
「それはけっこうです。必ずやりとげてください。ウンチルトンム、トンムたちの復旧作業は経済的意義ばかりでなく、政治的意義も非常に大きいのです。このことを忘れてはなりません」
「はい、わかりました」
「それから、提起したいことがあれば、遠慮なくいってください。では、トンムたちによろしくつたえてください」
将軍はこうむすんで電話をきった。
ボンー、ボンー。
事務所の柱時計が午前2時をうった。
ウンチルの眼前には、吹雪のこの真夜中にも、国政はもとより、労働者たちの健康までも気づかう将軍の姿がありありとうかんできた。
かれは目がしらがじんとあつくなった。
(つづく)
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