公式アカウント

〈2013年新春インタビュー〉「高校無償化」、裁判闘争へ/弁護士・裵明玉さん

2013年01月07日 15:29 民族教育

3、4世の力で明るい年に

朝鮮大学校卒業生初の弁護士として活躍中の裵明玉さん(32、名古屋北法律事務所)。これまで、障害者自立支援法違憲訴訟、三菱電気派遣切り裁判、朝鮮・韓国に関する事件、女性(DV)に関する事件、東京電力福島第一原発事故被害愛知弁護団の一員として、司法の舞台で活動してきた。そして、「朝鮮高校生就学支援金不支給違憲国家賠償訴訟愛知弁護団」の事務局長としても多忙な毎日を送っている。

活動の源

弁護士を志すベースとなったのは朝鮮学校に通ったことだった。東北朝鮮初中高級学校(当時)の初級部1年生だった頃、全校児童・生徒を対象に講堂で開かれたドキュメンタリー番組の上映会で、日本の植民地支配下に置かれた朝鮮の人々を撮影したモノクロ映像を観て「涙が止まらなかった」と言う。「どうして差別をするんだろう、人間に差がつくということはどういうことなんだろう、こんなにおかしいことが、どうしてまかり通るんだろう…」という疑問が小さな胸いっぱいに広がった。

中級部時代には、沖縄で米兵による少女暴行事件が起きた。被害者は12歳。その衝撃は当時同年代だった裵さんを震え上がらせた。時を同じくして、社会的には「従軍慰安婦」問題がクローズアップされていた。「朝鮮学校に通っていれば、日本の植民地支配については誰もが学ぶ。でもそれは、決して『過去』のものだけではないと思った。現に、被害者であるハルモニたちは、『今』も苦しみ、闘い続けているのだから」。

差別や偏見に対する思いは、実体験を通しても深まっていった。朝鮮の「核疑惑」が騒がれた中級部時代。学校では集団での登下校が義務づけられた。裵さん自身、制服であるチマ・チョゴリのオッコルム(胸のリボンのようなもの)を日本人に引っ張られ、頬を叩かれる被害に遭った。

進路に悩んだとき、オモニから「人を助ける仕事がしたいのなら、法律の道はどう?」と助言された。朝鮮大学校に法律学科が創設されたのは裵さんが高3のときだった。

朝鮮学校で得た力

朝大で過ごした4年間に人生と向き合い、寮生活を通して人間関係を学んだと語る裵さん。弁護士を目指し、受験勉強に明け暮れた日々を振り返り、「慣れない受験勉強は大変だったけど、初・中・高・大と民族教育を受ける過程で、歴史や社会、自分自身の生き方について深く考えられたことがモチベーションの維持につながった」と話す。

弁護士になって5年目。朝鮮学校で身につけた朝鮮語や人への接し方はさまざまな場面で役立っている。とくに朝鮮語は仕事と直接結びついている。名古屋には外国人が多く、中でも韓国人はかなりの割合を占めている。「日本語を話せない外国人が抱えている問題の中には、DVなど深刻なケースも含まれている。そんなとき、通訳を介さず、自分の言葉で相手と向き合えるのは、民族教育を受けたおかげ」だと裵さんは語る。また、日本国籍に変わった同胞が、本国絡みの相続問題などで裵さんを頼ってくるケースもある。「表向きには朝鮮人であったことを伏せていても、同胞ならではの問題を抱えているケースは多いが、偏見を恐れてなかなか相談できないという。そういうとき、日本人弁護士ではなく私を頼ってくれるのは、言葉や韓国・朝鮮法への知識など『ウリハッキョ』卒業生の持つ専門性、在日朝鮮人の歴史をよく学んでいることに対する信頼の現れだと思う」。

朝鮮学校で培ってきたものは、弁護士として働く裵さんにとって大きな力となっている。

「高校無償化」闘争は、昨年末に下村文科相が朝鮮学校への「無償化」不適用を表明し、2013年、裁判闘争へと大きく舵を切ることになった。「子どもたちが差別されるのを黙って見過ごしてはいけない。沈黙は差別を広げるばかり。朝鮮学校にこれまで支給されていた補助金までもが大幅にカットされた。原告の学生たちは、『拉致事件と自分たちの学校生活が結びつけられて、当たり前に勉強や部活を頑張っていることが認められないのが悲しい』と言っている。民族教育を受け、自国の価値観を学ぶことは子どもの権利であり、学生たちの方がよほど本質を突いている。裁判ではこの原告たちの思いと、朝鮮学校に込められた歴史を伝えていきたい」。

裁判闘争に向けて基本的な準備は整ったと語る裵さん。今月、大阪との同時提訴に向けて「今年はこれまで以上にもっと頑張っていかなければ」と気を引き締める。「私たちが黙っていては状況はどんどん悪くなる一方だ。裁判闘争は、ウリハッキョの学生たちを原告とした長い闘いとなるだけに、覚悟を決めて、弁護士としてしっかり取り組んでいきたいと考えている」。

2013年は、自分たち3世、4世の力で「明るい年にしていきたい」と裵さんは言う。かつて在日1世、2世たちが4.24教育闘争を命がけで闘い民族教育を守ってきたように、3世、4世が民族教育を守り抜くというゆるぎない決心を固めて、裁判闘争に臨もうと呼びかけている。

「この闘いが、同胞社会の明るい展望を切り開くものと信じている。愛知・大阪・東京の弁護団にもウリハッキョの卒業生たちが含まれている。これまで朝大法律学科を卒業した司法試験合格者は7人にのぼり、すでに弁護士は5人になった。同胞たちの権益を擁護するため、ウリハッキョ卒業生ならではのネットワークを活かし、全国各地の有志たちと力を合わせていきたい」と抱負を語った。

(金潤順)

関連記事

Facebook にシェア
LINEで送る