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〈ものがたりの中の女性たち62〉「私は人を殺しません」―ある女人

2022年11月25日 14:58 寄稿

あらすじ

貧しさに絶望した男が山に入り、自殺しようとしているところを美しい女人に助けられる。彼女は、重い荷物を家まで運ぶのを手伝ってほしいと言う。山奥には大きな屋敷があり、彼女はひとりで暮らしている。山奥で心細かった、これも何かの縁だと女人は言う。よく見ると、屋敷の内部は趣向が凝らされた装飾、何より彼女は美しく、聡明、話す声は歌うようでまた素晴らしかった。

ある男とある女人 イメージ

二人は愛し合い、共に暮らすようになる。ところが男は、どうしても残してきた父母が気になり一旦帰宅したいと言い出す。女人は当初反対したが、男がしつこく行きたいと言うのでこれを許し、くれぐれも他人の言葉に惑わされないようにと念を押す。男が実家に着くと、彼女の援助で両親は何不自由なく暮らしていることを知る。安心しまた山に帰る途中、ある老人に出会う。女人は数千年を生きた百足の化身であり、このままいけばお前は憑り殺されてしまうと老人は言う。驚いて退治の仕方を聞くと、食事の時飯を口いっぱいにほお張ったまま飲み込まず、唾液ごとそれを吐きかけると、百足の化身は死ぬと教えられる。家に着き、部屋の中をうかがうと、赤くて大きな百足が寝ている。だが、今までの恩を思うと、どうしても彼女を殺すことが出来ない。庭に向けて飯を吐き出す彼に、彼女は涙を流し感謝する。山中で出会った老人は蛇の化身で、どちらが昇天できるかを競っていたことを打ち明ける。そなたの高い徳のおかげで、私は龍になり昇天出来ますと言い残すと、女人は天に昇っていく。彼女の報恩で長く続いた干ばつは終わり、雨が大地を濡らす。男は家に帰り、彼女のおかげで豊かになり幸せに暮らす。

「花嫁は百足(むかで)の化身」は、「人外のモノと人が関係を持ち、変身後昇天、あるいは人になる」類型の民間説話である。

ムカデ

男には故郷に残した妻子がいる、煙草の煙と唾液で退治できる、昇天の競争相手が夭折した父や祖父、道士に変身した雄の百足である、昇天出来る機会を与えてくれたことに対するお礼として財宝を残すなど、本作とは細かなディテールが違う伝承も数多くある。百足の化身は無事龍に変身し昇天、男も家族ともども裕福になり幸せ、とハッピーエンドが多いが、稀に百足の化身が男に「退治」され死んでしまうものや、昇天を放棄し人に変身し男と限りある命を全うしたというものもある。

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