【インタビュー】「どっこい生きる」はんめの魅力を映画に/金聖雄監督
2022年05月11日 08:00 歴史在日同胞2世の金聖雄監督が、川崎・桜本とその周辺に住むハルモニたちを記録した映画の制作を進めている。2004年、桜本を舞台にしたドキュメンタリー映画「花はんめ」を発表して18年、その続編となる今回は、ハルモニたちの日常や民族差別に抗う姿を2本立てで制作した。今夏に完成予定。映画について金監督に話を聞いた。
―在日同胞1,2世のハルモニたちを映画に込めようと思ったきっかけは?
映像制作に携わるようになってから、さまざまな人生を歩んだハルモニたちを記録したいと思うようになった。そんな時、ハルモニたちと同世代のオモニが亡くなった。1世のオモニが生前、日本でどのように生きてきたのかについて詳しく話を聞けなかった後悔もあり、映画製作に臨んだ。
続編を制作しようと思ったのは、2015年に桜本で行われたデモがきっかけ。安倍政権が目論んだ安全保障関連法案に反対し、ハルモニたちが自ら街頭に立った。「戦争反対」「子どもを守れ」と言いながら800mを練り歩いた素敵なデモだった。
しかしその後、桜本でヘイトスピーチデモの開催が予告された。地域住民の働きかけで、ヘイトデモは行われたが桜本には来なかった。しかしハルモニたちの生活圏が脅かされる危険な事態だった。この現状を広く伝えようと思い、映画にしようと決めた。
―桜本のハルモニたちの印象は?
とにかくたくましい。識字学級で朝鮮語を学び、6畳の部屋で10人近くがわいわい話すハルモニたちのパワーに、終始圧倒された。
そんなかのじょらも、はじめは「なぜ自分が日本にいるのかわからない」「読み書きもできない」「自分の人生は恥ずかしい」と、自身の人生を否定していた。しかし識字学級など桜本で行われてきた取り組みの中で、人生や社会に対する認識がどんどん変わっていった。そのプロセスがあったからこそ映画も作ることができたと思う。
交流を重ねるうちに、激動の歴史を生きてきたハルモニたちの強さとたくましさを美しく感じるようになった。今ではすっかり「ハルモニファン」だ(笑)かのじょたちが持っている輝き、魅力を映像に込めようと努力した。
―前作でこだわった部分はあるか?
作中であまり歴史的背景を語らないこと。ハルモニたちが苦難を重ねた「過去」について言葉でかたらずとも、たくましく生きる「現在」と「未来」に焦点を当てることで(映画を見た人たちが)思いを馳せられるのではないかと思ったからだ。作中ではハルモニたちの夢や希望についてたくさん取り上げている。
―今作に登場するハルモニたちの特徴は?
前作に登場するハルモニたちはほとんど1世の方々だった。当時のハルモニたちの多くは亡くなってしまった。今作では2世やニューカマー、日系ペルー人の方など多様な背景を持つハルモニたちが登場する。前作と雰囲気もだいぶ変わったが、今作ならではの魅力もたくさんある。
―映画を「たんぽぽとマヌル」「ヘイトとの闘い」の2本立てにした理由は?
愉快でチャーミングなハルモニたちの日常と、おぞましいヘイトの問題を共存させることに違和感を感じたからだ。ただでさえヘイトの扱いについては迷いがあった。現場に行っても怒りや虚無感しか感じない、できれば避けたいという思いが強くあったのだ。
ただ、自らの権利を獲得するため差別と闘い続けたハルモニたちの歴史を紐解くためには、ヘイトの問題は必要不可欠だと感じた。現にハルモニたちは今でも民族差別と闘っているから、その姿を記録することは大切なことだと思い、腹をくくった。
一方、ハルモニたち1人ひとりの人生にもフォーカスしようと心がけている。映画では前作からの約20年の時間を、ハルモニたちの作文や絵画、生活を通して展開したい。ハルモニたちの「豊かな老い」と「闘いの歴史」を通して、観客の心に響かせたいと思っている。
―映画に対してハルモニたちはなんと言っているのか?
皆「いつ公開するのか」と、完成を心待ちにしてくれている。「釜山国際映画祭」にみんなで行こう!などと希望も語りあっている。「自分の人生なんて取るに足らない」と話していたかのじょらが、映画を通して、自分の人生がどれだけ多くの人の心を動かすのか感じてくれたらうれしい。
―観客に届けたい思いは?
ハルモニたちが生きてきた人生の尊さが伝わることを願っている。
「素敵なおばあちゃんだな」という印象からはじまり、なぜこの人たちが日本にいるのか、なぜこんなにたくましいのか、など、かのじょらの人生の背景に思いを馳せてほしい。また、愛らしいハルモニたちの姿を通して社会の不条理にも目を向けてくれれば何よりだ。
1つの映画が語れることは多くないが、いわれのない差別と闘い続けながらどっこい生きているハルモニたちの魅力に、たくさんの人が触れてほしい。
金聖雄
1963年、大阪・鶴橋にて生まれる。在日同胞2世。現在ドキュメンタリー映画やPR映像など幅広く手がけている。2004年に1世の暮らしを記録した「花はんめ」を公開。「SAYAMAみてない手錠をはずすまで」(2013)では毎日映画コンクールドキュメンタリー映画賞受賞。
2021年に「さくらもとプロジェクト」を立ち上げ、現在2本の映画を制作中。映画の公開に向け、制作費用も募っている。支援の詳細はQRコードまで。
(まとめ・金紗栄)