〈学美の世界 39〉作品表現に至るまで―東京中高・高2鄭大悟の場合/崔誠圭
2022年03月14日 09:17 寄稿今回の「学美の世界」では生徒の作家世界がどの様な経緯でそこまでに至ったかを近くで観察できている特権で書いてみようと思う。一昨年からの全国審査や全国合同合宿の中止を余儀なくされている。各地方ごとに美術部生徒たちが深めている表現世界を少しでもリアルに感じたい。互いに会えない朝鮮学校の若きアーティストたちの成長に思いを馳せながら。それでは東京朝鮮中高級学校高級部2年の鄭大悟さんの作品たちを紹介しよう。
この作品1はTRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)というテーブルを囲んでトーク(会話)し、遊ぶゲーム世界のイメージ画像だ。この作品を観てイメージされたシナリオをプレイしながら、登場人物たちは物語を紡いでいく。昔からTRPGで紡がれた物語世界がノベル化され、漫画化され、映画やゲームとなって現れている。
この作品から私たちは何を想像できるだろう。
題名の中にある「樹状構団柱」とは画面の柱上の構造物であるが、手前緑色の柱には窓があり、灯りがついている。人影は見えないが住居としての役割を果たしているのか。赤い柱は他とは違う特別な雰囲気を醸し出している。灯りは無く、赤茶けた錆のようにも見えるし、遺跡のようにも見える。下は空気が煙り、果てが見えない。
作者は今までこのような世界観にたどり着く作品をいくつか制作している。遡ってみよう。
緑色のごみごみとした世界で人の営みが描かれている(作品2)。これが樹状構団柱の世界に繋がるのだとすると、柱の底辺部分のしたたかに生活する人々の姿だろうか。風景の真ん中には柱状のものを連結する巨大なボルトが描かれていたり、遥か彼方に柱状の構造物が霞んで見える。
実はこの作品後、去年の東京中高美術部展「はじめての日常」では「aircon-man」というインスタレーションとパフォーマンス(作品3)を行い、学生美術展に出品した。
これは中級部時代に描いた作品「快適な世界」という作品の中で生活する労働者の住居をインスタレーションし、作者自身が演じたものなのだ(パフォーマンス時の「aircon-man」はあくまでも未来から来た別人格と言い張るが)。
緑色の世界で生きる人々を描いた2020年1月部展「ふじゆうトピア」で展示された作品(作品4)にそれらは表現されていた。
そしてこの原点には「快適な世界」という作品(作品5)がある。
作者が中2から中3まで左から順に水彩で一枚ずつ世界を広げていった作品だ。この世界では空気も何もかも全てコントロールされた世界であり、建物の壁がほとんど室外機でできている。
究極に管理された世界で室外機が積み重なった挙句、上へ上へと柱のようになっていったのだろうか。作家は樹状構団柱が立ち並ぶ世界にまで3年にわたり作品を積み重ねたことで世界を構築する強度を上げていった。
作品表現を平面、インスタレーション、パフォーマンスと現実を織り混ぜながら、どんどん吸収された知識、経験をアウトプットしていった。
作者の興味は最初エアコンの室外機やパイプや配管からスチームパンクな世界を好むようになり、その先達である大友克洋をはじめとした漫画家、イラストレーター、アニメ、ゲーム世界を吸収し、南のキムジョンギに憧れ、フランス・バンドデシネのメビウスまでも手を伸ばしていった。
これらの先達のアートやアーティスト作品の世界観は唯一無二のオリジナル性があるように見えて、実はとても密接に重なり、相互にリスペクトされ、古典へと系譜を辿りながら世界の神話までも吸収している。独自な世界を創作する作家は無意識の上のステージにおいて、他の作家世界と繋がっていたりするものだ。創作した世界の間を行き来しながら無限に空間を広げていける次元にたどり着いたのだ。
自分の世界を構築していったときに必ずぶつかる先達の仕事をどのように吸収するか、同年代の創作家とどのように刺激をしあうかで世界は広がりを見せ、強固になっていくのかもしれない。
貴重なものを吸収する機会と、他の創作者との交流や刺激は、自らの意識がなければ目の前を静かに通り過ぎてしまう。
コロナが明けた時に全国の美術部生徒と交流できる合宿や展示の機会は唯一無二のものとなるだろう。
現在この作家は、一旦この世界を置いて次なる表現を進めている。
そのチャレンジがさらに表現世界を広げてくれるはずだ。
(在日朝鮮学生美術展中央審査委員、東京朝鮮中高級学校美術教員)