勝訴という事実の重要性、継承を/オンライン学習会「対談・第一審勝訴に導いた専門家たち~」
2021年10月07日 11:54 民族教育9月30日に行われた「無償化連絡会・大阪」による第5回目のオンライン学習会。パネリストらによる対談形式となったこの日の学習会では、大阪地裁判決を勝訴に導いた田中宏さん(一橋大学名誉教授)、伊地知紀子さん(大阪市立大学教授)、丹羽雅雄さん(大阪弁護団団長)が、訴訟に携わるなかでの思いや、判決を今後の民族教育擁護運動にどのように活かしていくのかなどについて、それぞれ発言した。
”垣根はなく共感があった”
学習会は、大阪無償化弁護団の金英哲弁護士がコーディネーターを務めた。同氏は高校無償化制度から除外された朝鮮高校をとりまく当時の状況と、それに伴い始まった裁判闘争の経過、また「無償化連絡会・大阪」をはじめとする支援の動きについて説明しながら、各パネリストたちに発言を求めた。
朝鮮高校に対する同制度の適用をめぐっては、2010年 11月23日に発生した延坪島砲撃事件を理由に、菅直人首相(当時)が審査手続きの停止を指示、その後審査が凍結された。さらに2012年12月、民主党からの政権交代により発足した第2次安倍晋三内閣が、不適用の方針を決めたことで、制度からの除外が確定的となった。以後、各地5ヵ所(大阪、愛知、広島、福岡、東京)で裁判闘争が展開され、今年7月27日の広島無償化裁判と関連する最高裁決定を最後に、同種訴訟はいずれも朝鮮高校側の敗訴が確定している。
各地で行われた裁判のうち、唯一の勝訴判決を勝ち取った大阪での司法闘争。丹羽雅雄さんは、17年7月28日の勝訴判決が出た当時を振り返りながら「傍聴席に垣根はなく共感があった。立場の違う人々が共通の目的で勝利判決を得たこの空間は、私が弁護士としてこれからも目指さなくてはいけないと心から感じた」と語った。
また田中宏さんは「大阪の熱気は全国5つ弁護団があったが模擬裁判をやったことからも感じられた。それに保護者へのアンケートを踏まえた伊地知さんの調査意見書を出したのも大阪ならでは。それが裁判官を動かしたのではないか」と語った。そのうえで、同氏は「大阪の判決が司法としての役割を果たした唯一の判決だ。より多くの人に高校レベルの教育を保障するため、一条校だけでない専修学校や外国人学校も全部対象にしようとしたのが本来の法律の趣旨だった。それを、わざわざどこかだけ外すというのはとんでもないことで、大阪の判決は、それをおかしいとはっきり指摘した」と、改めて同判決を評価した。
「朝鮮学校の問題だけでなく、日本の植民地支配に関わるあらゆる裁判は負けている。そのなかで勝てたのは、最初から弁護団だけじゃなく私みたいな素人も含めて、どうやって勝つのか、何をすれば勝つのかを共に考えたことにあったのでは。可能性というのは、市民の力でつくるしかないと思った瞬間だった」
そう語るのは伊地知紀子さん。伊地知さんは、勝訴の要因に多くの人々が運動へ参与したことをあげたうえで「勝ったという事実の重要性を、継承していかなくてはならない」と強調。さらに「司法は等しく、人を差別せずに、正義に基づいて案件を裁くものだろうと思うが、現実としてそれがなっていないことを、いろんな裁判を見ながら思う。そのような日本の司法の現状のなかで貴重な勝利を得たこと、その決定打が何かはわからない。だけども結果として勝てたということを、運動として、私たちがつくる社会に対しての勝利の意味としても、もっとたくさんの人たちと共有するべきでは」と、大阪での一勝の意義を継承していく重要性について意見を述べた。
重要な視座
対談後、パネリストたちは、参加者から寄せられた意見に対し回答した。
なかでも、大阪高裁で逆転敗訴となり、結果的に学園側の敗訴が確定したことで、「地裁判決の価値が見えにくくなっている。この価値をどうすれば再認識し、運動に活かすことができるのか」という質問への回答は、民族教育をとりまく国や行政の排他的な施策が続くなかで、重要な視座となった。3人の発言者はそれぞれ次のように回答した。
意見書を提出し勝訴判決に導いた一人である田中宏さんは、国際的なアプローチの重要性について語った。
田中さんは「(日本政府は)国内の説明では、学校運営の適否は関係なく、規定ハを削ってあるので適用されることはないとし、国際社会には、朝鮮学校に問題があるからそれを解決すれば適用されると説明する。これが日本と国際社会とのズレだ」としながら「国際的な目で見た時、日本がどれほどおかしいかということを知り、そのための環境をつくっていく。外との関係をもって考えるしかないと思っている」と話した。
また学園の全面協力のもと、当時府下朝鮮学校に子どもを送る保護者たちへのアンケートを実施し、それに基づく調査意見書を裁判所へ提出した伊地知紀子さんは「運動という言葉にどういうイメージをもつか、それぞれ違うと思うが、今回アンケート調査を通して思ったのは、声を形にして、その声が広がっていくように、つながりを作っていくことが大事だと思った」と語った。
そのうえで同氏は「例えば、各朝鮮学校がある都道府県で、それぞれ大学の研究者がいるので、その人々を巻き込んでいく。協力する人たちは、何かアクションを起こさなくてはならないと思っている人だ。朝鮮学校の歴史を知らないこともあるかもしれないが、関わっていくなかで学ぶこともある。関わる人の層や幅を広げるプラットフォームみたいなものが必要なのでは」と、経験を今後の運動で応用していく価値について強調した。
弁護団長として裁判を引率した丹羽さんは「21世紀の国際的人権の潮流が何かをしっかり見る必要がある。そしてマイノリティ同士のコミュニティをいかにつくれるか」が大事だと強調。「日本人の立場からいえば、あの法廷での共感、あれをいかに広げられるか、そして絶対にあきらめない。朝鮮学校で学ぶ子どもたちの、学習権の阻害要因になったものを跳ね返す運動を最後までやる、こういう決意が必要だ。それをしたたかに、かつ楽しく、どれだけ運動でつなげていけるのかが核になる」と述べた。
学習会の最後に、丹羽さんは大阪地裁訴訟の意義を改めてこう強調しながら、参加者たちに向けて、引き続き関心を持ち地道に連帯の輪を広げていく重要性を説いた。
「排他的な時代状況のなかで、朝鮮学校の歴史的経緯や朝鮮総聯の歴史的役割など、本質的な事項にすべて触れた画期的で、他方では当たり前の判決だった。国際人権委関連は、この問題に対し、人種差別だと、被差別・平等に無償化を適用しなさいと言い続けている。日弁連もそうだ。大阪地裁判決は、普遍的な人権の価値をきちんと判断したが、二審そしてその他の地域の多くの判決は、最終的に(朝鮮学校に対し)治安管理の主張をしてきた国の意向と同様の方向性で判断している。朝鮮学校が、普遍的な価値を持つという、この認識をさらに広げていく必要がある」(丹羽さん)
(韓賢珠)