【特集】朝鮮学校だけ排除、「高校無償化」問題とは
2012年03月27日 17:01 特集「すべての学び」を国がサポートするという趣旨の下、2010年4月1日に「高校無償化」制度が施行された。しかし、拉致問題や朝鮮半島情勢など、子どもたちとまったく無関係な政治・外交上の理由によって、朝鮮学校の生徒だけが対象から外された。日本政府は「外交上の配慮などで判断すべきものでなく、教育上の観点から客観的に判断すべき」との統一見解を示した。しかし、ことあるごとに朝鮮半島での問題を口実に、審査手続きを停止し、適用を先送りしてきた。制度施行から3年、安倍政権は、朝鮮学校への適用の根拠となる規定を省令から削除し、朝鮮学校を完全に対象から外した。
最新ニュース
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問題の経過
◆文科省告示(31校の外国人学校を指定)
2010年4月30日、文科省は官報を通じて「高校無償化」制度の対象となる外国人学校について公表。朝鮮学校は除外された。対象には、本国政府が日本の高校に類する課程と認定した東京中華学校、東京韓国学校、横浜中華学院、ブラジル人学校など14校と、国際的な評価機関の認定を受けたインターナショナルスクール17校が含まれた。文科省は、朝鮮学校の扱いについて5月中に専門家らによる検討の場を設け、夏頃までに判断するとした。
※朝鮮学校については、「高等学校の課程に類する課程」を有するかどうかを検討した上で文科相が指定することになった。
◆「検討会議」(高等学校就学支援金の支給に関する検討会議)について
文科省は、客観的な判断基準作りと審査のための「検討会議」を6人の教育専門家らで発足した。
2010年8月30日、「高等学校の課程に類する課程を置く外国人学校の指定に関する基準等について」(検討会議の基準)を提示。
▼専修学校高等課程に求められている水準を基本とする▼個々の教育内容を基準としない▼外交上の配慮などに判断すべきものではなく、教育上の観点から判断すべきものであるとしている。
2010年11月5日、文科相が「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則第1 条第1 項第2 号ハの規定に基づく指定に関する規程」(文科省の適用基準)を発表。
専修学校高等課程の設置基準をベースに、▼修業年限3年以上▼年間授業時数800時間以上▼教員数(生徒数81~200人)6人などと定められた。
これを受け、朝高10校が2010年11月30日までに制度適用を申請。すべて受理された。
差別に基づいた適用遅延
◆外交上の問題と結びつけ
日本政府は、政治・外交上の配慮から判断すべきではなく、教育上の観点から判断すべきだとしているにもかかわらず、「拉致」問題や2010年11月の延坪島砲撃事件など、朝鮮半島での問題を理由に手続きを凍結させてきた。
◆先送り
2011年8月末に菅直人首相(当時)の指示により、審査手続きが再開されたものの、未だその結論は出ていない。同年11月末には現地調査も終了している。文科省は遅延の理由について、審査後、省としてすべての人が納得できるように対処する説明義務があり、朝鮮学校に対する制度適用を求める声と反対する声を共に受け入れ、客観的、公正に判断するために朝鮮学校への追加書類の提出などを含む確認作業を行っており、時間がかかっていると説明。
◆朝鮮学校と同じ項目に属する他の外国人学校については適用
朝鮮学校と同じ項目に属する(各種学校である外国人学校〈ハ〉、下記※参照)ホライゾンジャパンインターナショナルスクール(2003年)、コリア国際学園(2008年)に対し、2011年7月初旬から審査が行われ、それぞれ同年8月(ホライゾン)、12月(コリア)に対象校として指定された。
※「高校無償化」制度における専修学校及び各種学校
1. 専修学校高等課程
2. 各種学校である外国人学校
イ)民族学校:大使館を通じ日本の高校相当の課程であることを確認(ドイツ、韓国など)
ロ)インターナショナル・スクール:国際的に実績のある学校評価団体の認証を受けとことを確認
ハ)イ、ロの対象とならないもの:高等学校の課程に類する課程を置くものを文科相が指定
→「高等学校の課程に類する課程」として満たすべき基準、審査体制などにつき検討会議で検討。
◆二重の負担
「高校無償化」制度施行に伴う、扶養控除の見直し(16~18歳までの特定扶養親族に対する扶養控除の上乗せ部分を廃止)により、朝鮮学校の保護者たちは2重の負担を強いられている。
◆補助金問題に波及
「高校無償化」問題が長引くなか、東京、大阪をはじめとする各自治体が、朝鮮学校に対する補助金支給を停止した。
- 2012/03/26 2012/03/26
- 第二東京弁護士会が声明発表、朝鮮学校補助金支給求め 2012/03/28
- 愛知県知事と面談、学校関係者ら、補助金増額、学校訪問を要請 2012/04/07
安倍政権、朝鮮学校を完全排除
2012年12月、下村博文文科相は、「朝鮮学校については、拉致問題に進展がないこと、朝鮮総聯と密接な関係にあり、教育内容、人事、財政にその影響が及んでいることなどから、現時点では国民の理解が得られない」などとし、朝鮮学校に適用しない方針を表明した。2月19日、下村文科相が朝鮮学校を完全排除する省令の「改正」を発表した。
- 「無償化」除外を受け朝鮮学校関係者が記者会見 (2013.02.20)
朝鮮学校への制度適用を求める活動
「高校無償化」問題が浮き彫りになった直後から、朝鮮学校の生徒、保護者、関係者、同胞たちは、絶え間なく朝鮮学校に対する制度適用を求めて果敢に活動を展開してきた。運動の輪は、日本と南朝鮮の市民たちの間にも幅広く広がっていった。
◆学校関係者、同胞、日本市民の怒りの声
- 【高校無償化】“最後まで声を上げる” 関係者たちの声
- “わかり合えると伝えたい” 神戸朝高 崔仁美
- 朝鮮学校支援、全国ネットワーク始動へ (2012.5.20)
- 大阪朝鮮学園支援府民基金が発足 (2012.6.16)
- 朝鮮学校への「高校無償化」適用を求める大学教員らのコメント
◆集会とデモ
- 3.31全国集会&パレード (2013.4.1)
- 「高校無償化連絡会・大阪」結成 (2012.3.2)
- 代々木で「高校無償化」集会 “卒業式までに適用を!” (2012.3.2)
- 【高校無償化】東京集会に日本各地、南朝鮮から1千人 (2011.6.25)
- 【高校無償化】2.26大集会 2千余人が東京・渋谷周辺をデモ (2011.3.2)
- 【高校無償化】都内で全国集会とデモ (2010.9.28)
- 【高校無償化】東京で1,200人参加の市民行動 (2010.7.2)
- 【高校無償化】東京 69団体主催の緊急行動 朝・日の1千余人が街頭アピール (2010.3.29)
◆署名活動
朝高生をはじめ、多くの支援者たちは、灼熱の日照りも、雪が降る厳寒も厭うことなく、街頭に出てビラを配り、「朝鮮学校外し」の不当性を訴えてきた。そうして集めてきた署名の数は58万筆をゆうに越えた。2010年には、各地の朝高生たちが直接、文科省に赴き11万余筆の署名を手渡した。
- 【高校無償化】宝塚市民がハンスト、朝鮮学校への即時適用訴え (2011.2.26)
- 【高校無償化】各地の朝高生代表たち、文科省へ要請 (2010.8.2)
◆要請活動、院内集会
多くの団体が文科省と内閣府、民主党に対する要請活動を行い、院内集会を催し、問題のひずみを訴え、朝鮮学校への制度適用を求めてきた。
- 【高校無償化】卒業生らが民主党と文科省に要請 (2012.3.13)
- 【高校無償化】市民団体が院内集会 (2012.2.18)
- 【高校無償化】院内集会、終わらない差別に怒り、「最後まで闘う」(2012.11.1)
◆弁護士有志の会が意見書
外国人学校・民族学校の問題を考える弁護士有志の会(共同代表=吉峯啓晴、丹羽雅雄弁護士、2003年結成)は、2度にわたり内閣府と文科省に意見書を提出している。
- 【高校無償化】弁護士有志の会が記者会見 (2012.2.22)
◆国連委員会が勧告
2010年3月16日、国連の人種差別撤廃委員会は、一部の政治家が「無償化」制度の対象から朝鮮学校を除外するよう主張していることについて、「子どもの教育に差別的な影響を与える行為」だと懸念を発表。(関連記事:【高校無償化】国連・人権差別撤廃委 対日審査報告書発表)
2010年6月12日、国連の子どもの権利委員会は、民族的マイノリティーに属する子どもへの差別を生活のあらゆる分野で解消し、そのような子どもたちが制度上のサービスや支援を平等に受けられるよう、必要な措置をとることを促した。(関連記事:「子どもの権利条約」対日審査結果)
2012年2月24日、「高校無償化」制度の対象から朝鮮学校のみが除外されている問題で、人種差別撤廃条約違反として、3つのNGO団体(外国人学校・民族学校の制度的保障を実現するネットワーク、在日本朝鮮人人権協会、反差別国際運動日本委員会)が国連人種差別撤廃委員会に日本政府に対する早期警告と緊急行動を要請した。(関連記事:NGO団体が国連委に要請へ)
◆国賠訴訟、法廷闘争へ
2012年12月、安倍自民党政権は朝鮮学校を制度から完全に排除する方針を発表した。制度施行から3度目の卒業式が迫るなか、大阪と愛知で日本国を相手取り訴訟が起こされた。
- 東京中高生徒62人が国家賠償請求(2014.2.18)
- 広島でも提訴/在校生、卒業生が原告に(2013.8.2)
- 「朝鮮学校だけ排除は違法」、大阪と愛知で日本国を提訴(2013.1.24)
◆オモニ代表団、ジュネーブ(国連)で活動
国連社会権規約委員会による日本政府の報告書審査に際して今月28日からスイス・ジュネーブを訪れている朝鮮学校オモニ代表団が、「高校無償化」制度からの排除をはじめとする日本政府の朝鮮学校に対する差別的政策の不当性を国連の場で訴えた。
- ウリハッキョ オモニ会のみなさんへ(アピール文/全文) 2013/02/12
- 国連に折鶴を送ろう! 募金にも協力を-「私たちの夢、私たちの心プロジェクト」 2013/02/12
- 群馬初中代表たちに折鶴3,770羽を伝達、南支援団体からエール 2013/04/01
- 「高校無償化」実現への決意/群馬初中に3万余羽の折鶴 2013/04/10
- オモニ代表団、28日出発/国連社会権規約委に参加 2013/04/23
◆国連社会権規約委が是正要求
- 国連・社会権規約委、朝鮮学校への「高校無償化」適用求める
- 日本に関する所見原文(2013.5.17)
関連サイト
- 朝鮮高級学校無償化を求める連絡会・大阪HP
- 「高校無償化」措置を朝鮮学校に適用することを求める大学教員の要請書
- 「高校無償化」とは (外部サイト・文部科学省)
- 高校就学支援ホットライン (外部サイト・文部科学省)
- 意見公募に関する案内 (外部サイト・イーガブ)
朝鮮学校への「高校無償化」制度適用に関するQ&A(「高校無償化」からの朝鮮学校排除に反対する連絡会)
- Q1 「高校無償化」には、どういう意味があるのでしょうか?
- Q2 他の外国人学校の指定はどうなっているのでしょうか?
- Q3 2010年11月5日に発表された審査基準とはどういったものでしょうか?
- Q4 「高校無償化」制度の実施に伴い、高校生がいる家庭への税負担の軽減措置が無くなったと聞きましたが、このことは外国人にも関係があるのでしょうか?
- Q5 「高校無償化」適用は、やはり拉致問題の解決や北朝鮮との関係改善が条件になるのではないでしょうか?
- Q6 日本学校とは違う見方で歴史を教えているのは問題で、その変更を「高校無償化」制度適用の条件にすべきではないでしょうか?
- Q7 北朝鮮や朝鮮総聯との関係が深いのは問題ではないでしょうか?
- Q8 国連人権機関でも勧告が出ていると聞きますが?
朝鮮学校「無償化」除外問題Q&A(金明秀・関西学院大学社会学部教授)
- 【Q1】日本の私立高校でも無償にはならないのに、なぜ朝鮮学校だけ無償化が議論されているのか。
- 【Q2】北朝鮮とは国交がなく朝鮮学校の教育内容を確認できないので、「高校無償化」の対象から外されているのではないか。
- 【Q3】朝鮮学校は学校教育法第一条にいう「学校」ではないのだから、そこまで「高校無償化」の対象とするのはおかしいのでは。
- 【Q4】本当に朝鮮学校の生徒以外に「高校無償化」の適用を受けることのできない高校生はいないのですか。
- 【Q5】なぜ朝鮮学校だけが「高校無償化」の適用を留保され続けているのか。
- 【Q6】他の国でも外国人学校に助成金など与えていないと聞く。日本人の税金で外国人学校を支援する必要はないのではないか。
- 【Q7】朝鮮学校だけを「高校無償化」から除外するのは違法なのか。
- 【Q8】閉鎖的な朝鮮学校の側にも問題がある。お互いに理解に向けて努力すべきでは。
- 【Q9】反日教育をしている朝鮮学校に公金を支出するのは抵抗がある。
- 【Q10】そもそもなぜ日本生まれの四世、五世にもなって民族教育を行う必要があるのか。日本の公立学校に通えばいいのでは。
(朝鮮新報)