〈続・歴史×状況×言葉・朝鮮植民地支配と日本文学 21〉不可能な「故郷」と、「監禁状態」/安部公房②
2020年04月09日 14:51 寄稿2012年に新発見された短編「天使」、19歳の処女作「(霊媒の話より)題未定」が収録された初期短編集の発売(2013)などにより、近年、安部公房の最初期を見直す動きが活発なようだ。生前未発表作品を含めこれら初期作品のほとんどにおいて、安部の植民地体験が色濃く反映されている。日本敗戦間際の満州を舞台にしたデビュー作「終わりし道の標に」(1948)からおよそ10年後の長編「けものたちは故郷をめざす」(1957)を取り上げたい。ちょうどこの3月に岩波文庫から新刊として再び発売されている。
満州生まれの久木久三は16歳の年に日本敗戦を迎え、混乱の中、周囲の日本人は彼を置き去りにして引揚げてしまう。ソ連軍将校たちに保護され二年以上を過ごすが、日本に向かう決意をした久三は、国共内戦の混乱をくぐりながら、高石塔という謎めいた人物とともに過酷な荒野を徒歩でさまよいどうにか奉天(瀋陽)まで辿り着く。密貿易者の日本人と出会い日本への密輸船に乗り込むも、高とともに船倉に手錠でつながれ、閉じ込められたまま、久三は「けもの」のように吠えて鉄壁を叩くが、ついに日本の地を踏むことなく作品は終わる―。