南北の作品、一堂に会せばどれだけ素晴らしいか
2018年07月30日 11:31 文化書籍「北朝鮮の博物館」訳者たちの思い
今年2月、同成社から張慶姫著「北朝鮮の博物館」が出版された。本書は2010年に南朝鮮の「芸脈」社から刊行されたもので、著者の張慶姫氏(韓瑞大学校教授)は日本語版の出版に寄せて、本書が北南関係が良好だった2000年代はじめの10年間で成し遂げたものであること、そして南朝鮮の政権交代により北南関係が急速に冷え込む中、姉妹校である愛媛大学から日本語版出版の提案があったと記した。東アジア3地域の協力のもと誕生した日本語版の翻訳に携わった3人のエッセイを紹介する。
モノがもつちから/松永悦枝・奈良文化財研究所研究員
私がこの本と出会ったのは、韓国留学から帰国した夏のことだった。そして刊行までの5年間、著者と顔を突き合わせた翻訳調整において、所収資料の圧倒的なパワーと著者の北朝鮮の文化財に対する思いを強く感じた。
翻訳中は多分野にわたる文化財の用語の翻訳に多くの時間を費やしたが、作業中の小休止や雑談のなかで盛り上がったのが‘わたしのお気に入りTop3’である。多種多様な文化財が紹介されるなかで3つに絞り込むのは至難の業であったが、私は青磁亀形装飾蓋付香炉(本書p.236)という、前足でドングリを握るリスを脚の代わりにした青磁香炉を常に1位においていた。朝鮮陶磁のなかでも動物をモチーフとしたものは多々登場するが、現代にも通ずる「カワイイ」を表現したものが高麗時代に作られ、それが北朝鮮で展示されているという点にも惹かれた。