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〈続・歴史×状況×言葉・朝鮮植民地支配と日本文学 2〉「苦海浄土」が問い続けた「近代文明の毒」/石牟礼道子(上)

2018年05月19日 09:00 寄稿

「世界文学全集 苦海浄土」(河出書房新社)

今年2月に他界した石牟礼道子の「苦海浄土」を読み直している。作家・池澤夏樹個人編集による、「世界文学全集」(河出書房新社)全30巻中、日本文学からは唯一本作をあえて選び収めた池澤の慧眼はあらためて見事だと思う。水俣病という公害をめぐり、チッソという一企業ばかりでなく、国そして国民が「戦後民主主義」によって数多の患者を病気に追い込んで殺した責任があるとする池澤の「解説」の指摘は、「3.11」を経て、水俣市を含む熊本の大地震の後に、いっそう重い。自然を、海を、決して領有・私有せず、古代の時間感覚とともに共有共存し、「天のくれらすもん」に恵まれながらつつましく営まれていた人々の「いのち」と尊厳を破壊したのは、「公有のものを汚すという人間の歴史における根源的な罪」であり、さらに石牟礼道子が問い続けた「近代文明の毒」であったろう。

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