〈在日発、地球行・第2弾 2〉あの日を懐かしむアラフォー世代/エチオピア
2018年05月01日 15:03 在日発、地球行「みんなが幸せそうだった」
エチオピアと言えば?筆者が真っ先に連想したのは「コーヒー」である。
コーヒー発祥の地とされる同国は、国土の大部分がアビシニア高原と言われる標高2000m~3000mの高地(首都アディスアベバの標高はなんと2400m)。そのため赤道付近に位置するが平均気温は20度前後と温暖で雨量も多い。これらの要素が、栽培が難しいと言われるコーヒーの木の生育を可能にしている。
生産量の国別ランキングでは第5位で、輸出の7割近くをコーヒーが占める。一方、主要産業は農業のはずが食糧は輸入に依存し切っているのが現状だ。とすれば、自然災害や市場価格の乱高下に巻き込まれた日には…。
つい前置きが長くなってしまった。コーヒーの本場に足を運んだのだから試さない手はない。向かった先は1965年に創業したアディスアベバの老舗カフェ「トモカ・コーヒー」。店内は昼間から多くの現地人と観光客で賑わっている。お店のロゴはなぜかライオン。店員によると、「コーヒーを飲むとライオンのように強くなるからさ、ハッハッハッ」だそうだ。
地元民にはマキアートが人気らしいが、筆者は王道のブラックに挑戦した。立ち飲み形式の店内を見回して地元の人との相席テーブルに着く。ほどなくしてお目当ての品がやってきた。
新米のバリスタよろしく、まずは視覚と嗅覚から。色彩は限りなく黒に近い濃褐色。焙煎した香りは鼻孔をたち昇り、たちまち脳天へ。一口すすればエスプレッソの苦みが効いた、コク深い味わいが口いっぱいに充満する。これで1杯10ブル、日本円にして40円なり。お世辞抜きに、これまで飲んできたコーヒーの中でも別格に美味しい。
幸福感に浸っていると、向かいのアラフォー世代と思わしき男性2人が気さくに話しかけてきた。「どこから来たんだ?」。お決まりの質問に対しては、お決まりのフレーズで返す。「日本、でも国籍は朝鮮」。
あちらは少々驚いた様子。バックグランドについて話し終えるやいなや質問が飛んできた。朝鮮には行ったことがあるのか?と男性A。人々の生活はどうか?と男性B。会話が続くうちに哀愁を漂わせながら、こうこぼした。
「エチオピアもかつては社会主義だった」
「土地も、食べ物も、衣服も」
時は1970年代に遡る。それまでエチオピアでは親米路線をとる皇帝政府のもとで「近代化」政策が推し進められてきた。しかし経済情勢の悪化や飢餓による深刻な食糧難に堪えかねた民衆は1974年に全国的な蜂起を起こす。この「エチオピア革命」によって誕生した新政権は社会主義を宣言し、土地や企業の国有化、初等教育の普及など改革に着手していった。目の前の2人はその頃に幼少期を過ごしていたのだ。
「当時は土地も、食べ物も、衣服も平等に手に入ったんだ。裕福ではないけど、みんなが幸せそうだった。『朝鮮』と聞いて当時を思い返した。懐かしいよ」
年表をたどれば1987~1991年の国号が「エチオピア人民民主主義共和国(The People’s Democratic Republic of Ethiopia)となっている。はて、どこか耳慣れた名前だ。
エチオピアの初代大統領であるメンギスツ・ハイレ・マリアムは、とあるインタビューの中で最も尊敬する指導者に、キューバのフィデル・カストロ、そして朝鮮の金日成主席の名前を挙げた。訪朝時のエピソードからは親密な関係がうかがえる。
「金日成主席はすごく陽気な方だった。ヨットでクルージングした時、彼はお酒を飲んだり、タバコを吸ったりして冗談を言っていた。彼はエチオピアの真の友人だ。私たちに発電所、造船所、それに軍事顧問を提供してくれた。何の見返りもなしで」
堅固な社会基盤の上に人々の営みは豊かになっていった。
記憶をさきほどのカフェに戻そう。2人の顔を覗き込んだ。「今の暮らしぶりは?」。ふと口にした問いは彼らの胸に重くのしかかった。「持てる者と持たざる者のギャップが広がってしまった」。1991年に社会主義政権が崩壊して以降のことだという。
「経済の構造が変わるとあらゆるものがなだれ込み、国内の産業は力を失った。そのうちこの国は自分の足で立てなくなった。もう後戻りはできない」。幼い頃の思い出は「悲しい運命だ」という一言とともに忘却の彼方へと再び押し込まれていく。
遠く離れた日本にはエチオピアの現状がどのように伝わっているだろう。
“深刻な干ばつ。飢餓で大量餓死の恐れ”
テレビに映る、やせ細った無機質な人々。画面越しに聞こえるだろうか。心の底でうごめく声なき声が。真に欲するのは「土地」か、「援助」か。
(李永徳)
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