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〈本の紹介〉グローバルサウス入門/西谷修・工藤律子・矢野修一・所康弘著

2026年04月08日 06:45 時事

「南」から世界秩序を問い直す

文眞堂。2,200円+税

「グローバルサウス」という言葉は近年、国際政治の文脈で頻繁に用いられるようになった。それは単に「途上国」や「第三世界」を言い換えたものなのか。本書は、そのような見方に疑問を投げかけ、この言葉が現代世界の流れを理解するうえで重要な手がかりになることを示している。

本書は、歴史哲学、国際政治、報道の分野に関わる論者らが、その専門知識と経験を踏まえて考察した一冊。異なる視点からの分析を重ねることによって、「グローバルサウス」という語の多義性と、その背後に通底する共通の問題が浮かび上がってくる。

本書の核心は、「グローバルサウス」を地理的範疇ではなく、歴史的に構築されてきた不平等な関係の総体として捉え直す点にある。植民地主義と帝国主義のもとで、西洋諸国は他地域の資源や労働力を取り込みながら発展してきた。その歴史的過程のなかで形成された格差は、現在の国際経済秩序の内部にもなお構造的に埋め込まれている。

本書は、「グローバルサウス」とは固定された地域ではなく、世界システムの中で抑圧や周縁化を受けてきた人びとを指し示す概念であることも示している。そのうえで、この概念は、世界中で差別や文化的抑圧に晒されてきた人びとが、共通の支配構造に抗する能動的主体であることを含意している。この見方に立てば、在日朝鮮人の運動も、「北の中の南」という観点から、グローバルサウスとの連関の中で捉え直す視点が開かれる。

さらに本書は、歴史的に形成されてきた不平等の構造を踏まえつつ、多極化する世界の動向を捉えている。非同盟的な外交姿勢や、BRICSや上海協力機構などを通じた連携の模索は、西側中心の秩序が相対化されつつある現実を示唆している。ロシアの対ウクライナ特別軍事作戦をめぐる対応に見られた各国の距離の取り方も、その一端と言える。

西側中心の見方を問い直し、声を奪われてきた人びとの経験に目を向けることは、公正な国際秩序を構想するうえで欠かすことができない。本書は、その必要性を具体的に示している。

(徳)