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〈トンポの暮らしを支える/こちら同胞法律・生活センターです!67〉家主から「家賃を上げたい」と言われたら

2026年03月17日 08:47 寄稿

近年、物価の上昇や光熱費・修繕費などの建物維持費の増加を背景に、家主から家賃の値上げを求められるケースが増えています。これまで長く据え置かれていた家賃が見直されることもあり、借主としては突然の値上げに戸惑うことも少なくありません。もっとも、近年の物価高や建築費の上昇、固定資産税などの負担増加を考えると、家主側にとっても従来の家賃を維持することが難しくなっている場合があります。こうした事情から、家賃の見直しが議論される場面も増えているといえます。では、実際に「来月から家賃を上げます」と言われた場合、借主は必ずそれに従わなければならないのでしょうか。家賃の値上げをめぐる法律のルールについて、Q&A形式で解説します。

Q. 家主から「来月から家賃を値上げします」と言われました。必ず従わないといけませんか。

A. 必ずしも従う必要はありません。なぜなら、法律上、家主が一方的に家賃を値上げすることはできないからです。

借地借家法第32条1項では、社会経済状況や周辺の家賃相場の変化によって現在の家賃が適正でなくなった場合には、貸主・借主の双方が家賃の増減を請求できると規定されています。ただし、ここでいう「請求できる」というのは、あくまで変更を求める権利があるという意味にすぎません。家主が一方的に家賃を決めることができるわけではなく、最終的には借主との合意、または調停や裁判によって適正な家賃が判断されることになります。

Q. 値上げに納得できない場合は、どうすればよいでしょうか。

A. 納得できない場合は、値上げに同意しないという対応で問題ありません。

借地借家法32条2項は、賃料の増額を巡って争いがある場合でも、裁判で確定するまでの間は、借主は相当と認められる額の家賃を支払い続ければ、直ちに契約違反とはならない旨が規定されています。実務的には、従来どおりの家賃を支払い続けることで対応することが一般的です。

もっとも、ただし書に書いてあるとおり、最終的に裁判で賃料の増額が認められた場合には、増額分を過去に遡って支払う必要が生じることになります。

Q. 値上げに同意しないと、退去させられてしまうのでしょうか。

A. 値上げに同意しないという理由だけで退去させられることはありません。

借地借家法28条は、家主が更新拒絶や解約の申し入れによって契約を終了させるには「正当事由」が必要であると規定されています。「正当事由」は簡単に認められるものではなく、単に「家賃を上げたい」「値上げに応じない」という理由だけでは、通常は「正当の事由」として認められません。実務的には、家主が立退料を支払うことで「正当事由」が認められるケースが多いです。

Q. 値上げに同意しない場合、家主はどうするのでしょうか。

A. 家主による賃料増額請求は、当事者間の協議→調停手続→訴訟手続という手順を踏む必要があります。そのため、家主としては、借主が話し合いの結果値上げに同意しない場合、裁判所に賃料増額調停の申し立てを行い、そこで調停不成立となった場合は、賃料増額請求訴訟を提起することになります。

家賃増額が認められるかは裁判所が判断することになりますが、法律上、「何%までなら認められる」といった明確な基準はありません。裁判では、固定資産税などの租税負担の増減、地価や建物価格の変動、近隣の同種物件の賃料などを総合的に考慮して判断されます。現在の家賃が相場と比べて著しく低くなっている場合などには、賃料の増額が認められる可能性があります。

Q. 実際に家賃の値上げを求められた場合、どう対応するのがよいでしょうか。

A. 一概には言えませんが、値上げに同意せず裁判手続で争うというのは、あまりおすすめできません。最終的に裁判で増額が認められれば差額を遡って支払う必要が生じますし、解決まで長期間かかることもあります。近年の物価上昇や修繕費の増加などを踏まえると、家主側に家賃を見直さざるを得ない事情が認められる可能性はかなり高いです。そうすると、最終的に多額の金銭の支払義務を負担することになりかねませんし、家主との信頼関係も維持できず、生活していくうえで大きな不利益が生じる可能性も高いです。

そのため、値上げの理由や根拠を確認しながら、双方が納得できる条件を話し合うことも現実的な対応かと思います。それにあたっては、まずは契約書を確認し、賃料改定に関する条項があるかを確認しましょう。また、不動産サイトなどで周辺の同種物件の家賃相場を調べることも参考になります。

賃貸借契約は、貸主と借主の双方が長期間にわたり関係を続ける契約です。物価高などの社会状況も踏まえながら、法律上のルールを理解し、互いの事情を尊重して話し合いを進めていくことが、円満な解決につながるといえるでしょう。

直ちに値上げに応じる義務はないからといって話し合いもせず争う姿勢を示すことは、いい結果を招かない可能性が高いです。値上げの理由や周辺相場を確認した上で、必要に応じて専門家にも相談しながら冷静に対応することが重要です。

賃貸借契約についてなにかお困り事があれば、センターまでご連絡ください。

(李章鉉、弁護士、同胞法律・生活センター相談員)