【投稿】劇団アランサムセの「招魂」を観て
2025年10月30日 12:08 文化小雨降る初秋の夕暮れ、東京・高田馬場で劇団アランサムセの「招魂」を観た。
私はこれまで「アランサムセ」という劇団を知らなかった。この公演のポスターの題字をお書きになった書道家、金敬順先生にお誘いいただき観ることにした。
劇場までの裏道は複雑で迷いに迷った。なんとか辿り着いた劇場は小さい箱に小さい座席。座席は座ると腰が痛い。
朝鮮大学校卒業生を中心に構成された劇団、ということ以外、特別な興味も好意もなく観客席に座った。
幕が上がる。
俳優たちの演技に心が掴まれる。
それはまさに、炎の中を流れる水のような情熱、凍てつく水の上に燃え上がる松明のような信念が胸に刺さり 魂が揺さぶられる。
時に客席を笑いに包み、時に観客の涙をそそり、ゾッとする場面と心温まる場面、強くそして優しく、舞台上の時は流れる。
日本軍従軍「慰安婦」を題材にした演劇だけに女優たちの演技は秀逸だ。

演劇「招魂」のワンシーン
北極星を探しながら故郷の歌を歌うお互い名前すらわからない彼女たち、唇に紅をさし生まれて初めての指輪を選ぶ2人の女性、キムチを分け合ったり、肩をもみ合ったり親しく過ごす、はかなくも美しい場面が万華鏡のように繰り広げられる。
感動より熱く、感激より激しく、感銘より静かな…そんな空気が客席を満たす。
「アジミ(おばさん)が慰安婦だから会いに来たんじゃないの、アジミがチョソンサラム(朝鮮人)だから、私はアジミに会いたいの」。そんなセリフが心に染みる。
こんなにも辛く、苦しく、頑張って、逞しく行きてきた先人たちが切り開いた道を、今、私が歩いているのだろうか…
小さな箱の劇場の椅子、腰が痛すぎる。
でも私は、残された人生、腰を伸ばして胸を張って、民族の心を抱いて生きてみようか、そんなことを思った。
「招魂」を観終えて劇場を出た。
雨は上がっていた。空は真っ暗。北極星は見えない。
だけど私は今夜「招魂」を観たこの夜の黒い空をいつまでも、しっかり記憶することだろう。
(梁天、63、女性同盟東京・台東支部)