三重同胞奮闘記㉑「ピニョ」は歌う―歌うことは生きること/金琴純
2025年10月25日 12:19 暮らし・活動
ノレソジョ「ピニョ」の練習風景
ある月曜日の夕刻すぎ。四日市初中の教室から歌声が聞こえてくる。今日は女性同盟三重県本部のノレソジョ(歌のサークル)「ピニョ」の練習日。平均年齢74・5歳、月に2、3回家事や仕事を終えて集まるメンバーは8人だ。
この日練習するのは、女性同盟主催の「ノレソジョWEB競演」(11月締切)に応募する「내 나라의 푸른 하늘」。元金剛山歌劇団の歌手だった李仙姫さんが学生時代に歌った1980年代の曲を、今回ぜひオモニたちと歌いたいという思いから選んだそうだ。
「オモニたちに金賞を取ってもらいたいので鬼になります!」
ちょっとしたことでも何か違うと思ったらピアノを止め、実際に歌ってみせながら呼吸や音程、発音など細かく指導するのは同校卒業生で文芸同東海支部の尹玉任さん。教えて8年目になる。「本当に玉任ソンセンニムのおかげ。自然な発声法を学んでいい声が出るようになった」とメンバーは口をそろえる。
途中休憩を挟み、雑談になると思いきや自ずとピアノの前に集まり歌い始めるメンバーが…。メインパートでオブリガートを任された金靖順さんと金順愛さんが自主練の成果を披露していたのだが、実はこの2人、辞退するつもりでいたそうで「作品のために責任感をもってやる」と切り替えた2人の歌声にメンバーは驚いていた。

ノレソジョ「ピニョ」の練習風景
1986年に女性同盟四日市支部のノレソジョとしてスタートし、当時は津市や伊賀市から通うメンバーもいたそうだ。その間、休止やコロナ禍など色々ありながらも「ウリノレを歌い繋いで」をコンセプトに活動は続き、2014年に「ピニョ」と名付けた李和仙さんが今日まで責任者をつとめる。
津市で開かれる「ワイワイガヤガヤフェスタ」の参加歴は30年ほど。2023年の「ウリ民族フォーラムin三重」では若い世代と舞台に立った。思い出の舞台をたずねると、「文芸同東海支部結成65周年記念公演『聲』(昨年12月開催)での大合唱が忘れられない。いつかまた再結成してほしい」(申寿節さん)、「ウリノレを知らなかった私がたくさんの曲を覚えて歌えるようになって『聲』で娘と共演できたことが夢のようだった」(康英子さん)。
練習後のお茶の時間にもあれこれ歌のことばかり話し込むオモニたちは「歌うことが好きで上手になりたい」とどこまでも貪欲だ。
揺れ動く三重同胞社会の中で唯一続いている活動は「ピニョ」だけだと誇りを持ち、通える限りずっと歌いたいと宣言する先輩たちは元気で前向きで仙姿玉質。恒例のカラオケ大会には卓上からこぼれるくらいの手料理を持ちこむそうで、ぜひ今年はご相伴にあずかりたいとねだってしまった。
(「ウリ民族フォーラム2023in三重」と準備過程で活気を取り戻した三重同胞社会。フォーラム後も有志たちの奮闘は続いている。同フォーラム記録係を務めた金琴純さんがかれらの活動をレポートする。不定期掲載)
三重同胞奮闘記⑳カウントダウンが始まった!/金琴純
三重同胞奮闘記⑲総聯を生きる人々/金琴純
三重同胞奮闘記⑱学校支援の輪を広げるヒント/金琴純