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【投稿】小さな火でも、灯し続けること/徐美鈴

2025年08月01日 10:31 寄稿

九州の高3生徒たちが見た沖縄

金城実氏と「恨之碑」の前で

九州初中高・高3の修学旅行の引率として、沖縄を訪れた。

生徒たちにとってこの修学旅行は単に「陽気で愉快な癒しの観光地」への旅行ではなく、在日朝鮮人としての自己の立場や置かれた政治的状況を見つめ直すきっかけとなった。

負のカードばかり押しつけられながらも、決して屈しない沖縄のバイタリティーは、生徒たちの学びを後押しし、世界各地で今なお続く植民地主義との闘いの最前線に、自分たちも共に立っているという自覚をもたせてくれた。

同時に、被抑圧民族との連帯の大切さを実感し、植民地主義がいかに克服されていないかを見つめなおす、かけがえのない機会となった。

修学旅行を終えた生徒たちは、観光やレジャーももちろん楽しかったようだが、「4人の方々との出会いが宝物になった」と口々に語った。

生徒たちが出会ったのは以下の4人の方々である。

沖縄文学を牽引しながら、基地建設反対運動の現場にも立ち続ける芥川賞作家・目取真俊氏。

47年ぶりに沖縄での開催となった金剛山歌劇団公演で、実行委員会沖縄側代表を務めた親川志奈子氏。

自らの彫刻作品を通して植民地主義に抗う彫刻家・金城実氏。

そして、在日朝鮮人の弁護士として先鋭的な活動を続ける白充氏。

目取真俊氏とともに

目取真俊氏の講義を聞く生徒たち

生徒たちは、かれかのじょらの何に感銘を受けたのか。

それは、「日本人である前に沖縄人」「『在日』である前に朝鮮人」という揺るぎないアイデンティティ、そして、降りかかる「運命」に対して、自らの力で真正面から立ち向かうという、確固たる信念だった。

かれかのじょらは生徒たちに、困難な状況にあっても自らの可能性を信じ、未来を楽観的に切り拓くことの大切さを語ってくれた。

さらに、琉球民族が果たせなかった(今、かれかのじょらがまさに興そうとしている)、ウリの「民族教育」の意義と価値についても、情熱をもって伝えてくれた。

目取真俊氏との座談会では、ある生徒がこう問いかけた。

「抑圧構造の中にいる沖縄人や朝鮮人の若い世代に、伝えたいことはありますか?」

これに対し、目取真氏は次のように答えた。

「…生まれる時代や環境は選べない。そう考えたとき、『どう生きるか』が大事になる。今の時代、自分たちは何をすべきか。それを考えることです。この社会で差別されれば、人は小さくなってしまう。それを跳ね返す力が必要で、それは家族かもしれないし、学びかもしれない。何がバネになるかは人それぞれ。ただ、自分の中心にそれがあるほうがいい。強くあること。弱さは悪ではない。でも、自分が強ければ人を助けることもできる。何度でも立ち上がって、一歩一歩進めるようになってほしい。

沖縄の普天間基地返還にしても、火を消してはいけない。どんな小さな火でも、それはやがて大きくなるかもしれない。火が絶えれば、燃えるものもなくなる。小さな火でも、灯し続けることが大切なんです」

生徒たちにとって、沖縄はどのように映っただろうか。

少なくとも、生徒たちが見た沖縄は、単なる「癒しの観光地」ではなかった。

生徒たちにとっての沖縄は、自らの心に火を灯してくれた場所だった。

私は、沖縄で灯されたその小さな火が、生徒たちの心に絶えることなく灯り続け、やがて人生の壁にぶつかったときに、その火が、再び立ち上がる力となることを、心から願っている。そして、願わくは、その火を次の誰かへと手渡していく…そんな未来が続くことを信じてやまない。

(九州初中高教員)

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