〈ものがたりの中の女性たち90〉「私の人生は私が決める」-劍女
2025年06月02日 11:50 文化・歴史あらすじ
ある日、天下の奇士(奇異な才能を持つ者の意)と名高い蘇凝天(ソウンチョン)の元を、ひとりの女人が訪ねる。彼女は貴族の家の奴婢であったが、主家が滅び身を寄せるところもなく、蘇凝天の名声を耳にし、自ら妾になりたいと彼を訪ねる。蘇凝天は彼女を受け入れ、側室とし数年共に暮らす。ある夜、彼女は酒肴を用意し、その事情を語る。彼女の主家は、9歳の時に当時の権勢家によって滅ぼされ、彼女と同じ年の令嬢と乳母の三人だけが襲撃を逃れ、他郷にたどり着き隠れ住むことに。10歳になると、彼女と主家の令嬢は男装し、剣術を学べる師匠を探し求め全国を旅する。2年ほど経つと名高い師匠に出会い、そこで5年間剣術の修業を積み、ついには空中戦を行えるまでになる。ふたりは都会に出て、剣術を人々に披露し大金を貯め、宝剣を購入する。剣術を披露するふりをして敵の家に潜入、一家を皆殺しにする。仇討ちを果たした令嬢は、「主家に義理立てする必要はない、自分の信念通りに生きなさい」という言葉を残して、亡き父母の墓前で自決する。遺言通り宝剣を売り、令嬢の葬儀を執り行い、「尊敬に足る男性」を求めて、ついには蘇凝天の元にたどり着く。ところが、共に住んでみると彼は噂ほどの器ではなく、名声と実態の間には乖離があることに気づき彼に色々と進言するが、ついには別れる決心をする。凡庸な彼の資質に気づいてしまった今、このまま彼の元に居続けることは、自身の生き方にそぐわないばかりか、主人(令嬢)の遺言に背いてしまう。今まで隠していた剣の絶技に支えられた激しく、美しい剣舞を最後に披露し、「劍女」は旅発つ。その後、彼女の行方はようとして知れない。
第九十話 劍女

劍女 イメージ
「劍女(コムニョ)」は、朝鮮王朝後期の学者安錫儆(アンソクキョン)(1718~1774)の文集「霅橋漫錄(サプキョマンロク)」に収録された漢文短編小説である。元来題名はなく、後世に「劍女」と呼ばれるようになったという。
主人公劍女は、血の滲む努力を重ねて