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別冊・月刊『イオ』「18人が語る私とコリアン」を読む/朴日粉

2025年02月22日 09:00 寄稿

思索と行動促す言葉の力

ジャーナリストにとっての必須条件とは何だろうか。随分前に読んだ本のなかにこう書いてあった。…とにかく現場に行く。人びとが生活する現場に出向いて、ゆっくり話を聞く。大きい耳と強い脚とで…。

私たちの「戦場」は朝鮮問題という、とりわけ日本のなかでは岩盤のように堅固な壁が幾重にも行く手を阻む険しい現場でもある。本書の書き手は全員在日3世だという。そんなかれらが、朝鮮民主主義人民共和国と日本との国交正常化という難問に果敢に切り込み、差別や排外主義に真正面から抗い、生まれたインタビュー集である。登場するのは映画監督、小説家、ジャーナリスト、芸人、漫画家、プロレスラー、プロサッカー選手ら実に多彩な18人の顔ぶれだ。月刊『イオ』に2021年から24年までの約3年にわたって連載されたもの。

辛い思いを共有してこそ

繰り返し語られる日本と朝鮮、過去と現在へのまなざし。戦後に満州から日本に引き揚げてきた山田洋次監督はこう語る。「本当に辛い思いをしている人のことは、同じように辛い思いを共有できる人によって慰められる。だから、そういう意味では、僕が中国から引き揚げてきてから、貧乏をしていた時代に、僕を慰めてくれたのは炭鉱で真っ黒になって働いていた朝鮮の人たちでした。そのことがずーっと尾を引いて、『寅さん』になっている」と。

大阪第4初級(当時)を2021年に訪れたコメディアンの村本大輔さん(前列中央)と同校の児童たち(『18人が語る私とコリアン』より。撮影=中山和弘)

現在、米国と日本を行き来しながら、独自の活躍を見せる芸人、村本大輔さんの言葉が何と瑞々しいことか。「『違い』というものがまったくなくなっている日本において、違いを守り続けている人たちはおもしろい。大阪も東京も街の顔の差がなくなっているなか、今日来た(桃谷の)コリアタウンにはカラフルな色やハングルがあってね。街の顔がちゃんとある。違いこそ笑いです」「今、歴史から在日朝鮮の人たちの存在がどんどん消され、透明人間のようになってきているように思う。僕は帰化(日本国籍を取得すること)してほしくないし、帰化させている方がおかしいと思っていて。トランスジェンダーの人たちもそうだけど、その人はその人で生まれてきたのに…」

つねにそうした状況に言葉で抗い、障壁に穴を穿つ努力を重ねてきた作家・柳美里さんの問いかけはずしりと重い。かつて柳さんは朝米対決が最高潮に達する危機的な局面にあっても平壌で出会った一人ひとりの顔を常に心に浮かべながら、こう訴えたことがある。「過去の痛苦を孕んだ現在の重みを軽くできるのは、現在の努力だけです。対話の道筋の中でしか、共通の言葉は見つけられません。わたしは、対話を、求めます」と。本書のなかでもその姿勢は揺るぎない。「今、世界は危機的な状況にある」との現状認識に立ち、「不安や恐怖にあおられた差別的なデマが、関東大震災の時とは比べ物にならないくらいの範囲に野火のように広まっていくのではないかという危惧があります」と強い警鐘を鳴らす。

「扉閉ざしているのは日本」

若い記者たちが取材を重ね、引き出した言葉の力。とりわけ日本体育大学選手団を率いて訪朝を重ねた松浪健四郎理事長の言葉は、読む者の心をストレートに打つ。「朝鮮の人々も日本と仲良くしたいと思っているということをわれわれは理解しなくてはいけない。そして、今扉を閉ざしているのは日本だと思います。世界平和を達成したいと願う国家であるのならば、在日の人たちへ手を差し伸べる温かい心を持たなければ、平壌の幹部にメッセージとして伝わらない。『意地悪されている、差別されている』ということしか伝わっていないなかで、相手側が仲良くしようと思うはずがないじゃないですか」。

思えばひどい話ではないか。学ぶべき歴史を学ばせない。記憶すべき過去を抹消する。歴史をパッチワークのようにつぎ合わせて、あった過去を消し、ありもしなかった過去をねつ造する。そのうえで、政権、メディアが一体となった「北朝鮮脅威論」を撒き散らす。人々を戦争へと煽り立てる日本の日常を照射する鋭い問題意識が際立つ。

沖縄に暮らす小説家の目取真俊さんが「沖縄の人の多くは、日常的に在日朝鮮人と接する機会が少なく、朝鮮についても新聞やインターネットでしか知らない。メディアでは、ミサイル、Jアラートなど、誤った情報しか得られません」と指摘して、そうするとおのずと頭の中で、偏見と差別意識が醸成されると憂慮しながら、「いかに知る機会をつくり、情報が届くようにするのかが大事です」と語っている。まさしく、若い記者たちが現場で受けたであろう至言の数々は、日朝関係の未来を切り開くうえで示唆に富む。思索と行動を促す一冊になるに違いない。

(ジャーナリスト)

朝鮮新報社から発行された別冊・月刊『イオ』 「18人が語る私とコリアン」

注文は、『イオ』のホームページサイトから!

https://www.io-web.net/ad_watashi-to-korean/

【定価】1500円

【送料】1冊:103円~

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【お問合せ】月刊イオ編集部 Tel:03-6820-0107(月~金、9時~17時) Fax:03-6822-9609

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