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〈金剛山歌劇団沖縄公演〉「奇跡」の底流に活動家あり

2025年02月19日 09:00 文化・歴史

金剛山歌劇団50周年記念公演「道」の沖縄特別ステージ。作品群の中でも、とりわけ耳目を引いたのは李栄守さん(人民俳優)が弾き語りを披露した男声独唱「トラジの花」。観客の中には涙する人も少なくなかった。この曲は、日本軍「慰安婦」として朝鮮半島から沖縄に連行された裴奉奇さんへ捧げる鎮魂歌で、沖縄在住のシンガーソングライター・海勢頭豊さんが1994年に作詞作曲した。

遺影を手に記念写真を撮る金文子さん他観客たちと李栄守団員(写真右)

曲の制作を依頼したのは、72年に総聯沖縄県本部の活動家として赴任し、裴さんに寄り添い続けた金賢玉さん(昨年7月9日逝去)と夫の故・金洙燮さん(県本部委員長)をはじめとする人々だった。そして、その思いを継いだ白充共同代表が今回の公演で演奏してほしいと歌劇団にリクエストし実現した。

兵庫県から兄嫁と共に駆けつけた賢玉さんの妹・金文子さん(75)は、「オンニ(姉)とヒョンブ(姉の夫)は、朝鮮の正当性や、在日朝鮮人そして民族教育について、本土より知らない人が多い沖縄の地で、人々に伝え続けた。祖国と組織に対する信念を持ち、亡くなる寸前まで活動したオンニをきょうだいながら尊敬する」と語る。

そして、この日は、「オンニと一緒に観るため」遺影を胸に抱き、観覧した。文子さんは、姉が公演を心底楽しみにしていたことに触れながら、「オンニは歌劇団が朝鮮の芸術を継承していることを誇りに思い、公演に拍手を送っているはず。また、こんなにたくさんの沖縄の人が観てくれて喜んでいると思う」と声を震わせた。

洙燮さんと賢玉さんは、基地問題や教育労働運動に取り組む運動団体をはじめ、生前に多くの沖縄の人々と連帯し、活動していた。

石川元平さん(86、元沖縄県教職員組合委員長)は、運動の過程で2人と知り合った。「今回の公演の話を聞いたときは夢のようだった」とうれしそうに語る石川さんは、47年前の公演で実行委員を務めた。2人を自宅に招いて夕食を共にするほどの仲だったという石川さんは「沖縄に在日朝鮮人は少ないが虐げられた者同士、金さん夫妻とはすごくよく意気投合した」とその関係を振り返る。

「沖縄の言葉で、心からの思いやりを『チムグクル』、他人の痛みで自らの心も痛むことを『チムグリサン』と言う。金さん夫妻との付き合いや46年前に訪朝した際にもそのような印象を受けた。心から喜怒哀楽を共にし、互いに支え合える仲だった」と今は亡き2人に思いを馳せた。

今回、ステージを彩った歌劇団をはじめとする出演者、公演開催に奔走した実行委がいたからこそ、「奇跡」の舞台が創り上げられた。しかし、在日朝鮮人として沖縄の人々と関係を紡ぎ、その土壌を耕し続けた沖縄の総聯活動家たちの存在なしに「奇跡」は成しえなかったこともまた、強調しておきたい。

(文・康哲誠、写真・盧琴順)

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