〈在日発、地球行・第4弾 6〉耳に残る親しみの言葉/シリア
2024年12月11日 07:30 主要ニュース過去の連載記事はこちらから▶︎ 在日発、地球行・▶︎〈第1弾〉、 ▶︎〈第2弾〉、▶︎〈第3弾〉
正式名称:シリア・アラブ共和国。首都:ダマスカス。人口:約2350万人(2023年時点)。面積:約18.5万㎢(朝鮮の約1.5倍)。言語:アラビア語。民族:アラブ人約75%、クルド人約10%、アルメニア人等その他約15%。渡航方法:シリア旅行はツアー参加でのみ可能。渡航前に現地の旅行会社に連絡し、事前に国境警備許可番号を取得する必要あり。朝鮮籍の筆者はヨルダンから陸路で国境越え、国境でビザ取得(24年8月時点)。
朝鮮との間に幾つもの共通点
ヨルダンとの国境地帯からシリアの首都ダマスカスまでは車で約2時間。道中には骨組みだけになった建物が延々と続いていた。
2011年から続く内戦の最中に破壊されたのだろう。かつては住居や商業施設であったはずの廃墟の中には、外壁に生々しい弾痕が残っていたり、跡形もなく瓦礫と化したものもあった。この地域で元通りの生活が営まれるには、どれだけの歳月を要するのか…。
シリアの未来を案じながら荒涼たる風景を眺めているうちに、シリア軍が駐留する検問所に差し掛かった。ドライバーが促す通りに、軍人にパスポートを差し出す。軍人はパスポートの写真と筆者の顔を見比べ、行ってよしの合図を出す。ダマスカスに着くまでには、このようなやり取りが何回も繰り返されたのだが、いくつかの検問所では軍人たちの思いがけない反応を目にした。
朝鮮パスポートを見るなり、ある若い軍人は「君を歓迎するよ」と言い、手を振りながら筆者が乗る車を見送ってくれた。また、ある強面の中年軍人は「実は君の国に行ってみたいと思ってたんだ」と口にしては、にっこりと笑顔を浮かべた。かれらが好意的な反応を示した理由は知りえなかった。ただ、二言三言と親しみのこもった言葉を交わす過程で、シリア入国時から抱いていた不安が自然と取り除かれていくのを感じた。
ダマスカス中心部に近づくにつれ、たびたび眼に留まるものがあった。それは、軍の検問所だけでなく、商業施設や病院の外壁、露店の暖簾にまで描かれていた。シリアの大統領バッシャール・アル・アサドの肖像だ。
1971年から大統領を務めた父ハフェズ・アサドの死去に伴い、2000年に大統領職を引き継いだかれは、米国や隣国イスラエルの中東支配に抗う指導者として一部では称賛を集めてきた。しかし西側諸国からは、強権的な統治を敷く「暴君」「独裁者」と非難の矛先を向けられ、暗殺の標的にもなってきた。アサド政権による人権侵害などを理由に西側の厳しい経済制裁を課され、外国勢力の軍事的脅威のもとで政権崩壊の危機に晒されてきたシリア。この国の現状には、朝鮮のそれと通じるところがいくつもあった。
違法な国境越え?
ダマスカスで宿泊するホテルにはすでに、シリアでツアーを共にする旅行者3人と、ツアー会社の代表を務めるアユーブ(33)がいた。ツアーに参加するのは、内戦続きのシリアにおける旅行では政府公認ライセンスを持つガイドの同伴が必要だからだ。ツアー会社は政府保護下の地域で旅行を催行するため、旅行者の安全は保障されている。アユーブは、心配は無用だと旅行者たちに語りかけた。
旅行者たちのパスポートを確認する作業に入ったアユーブは、時折変わる入国審査の情報を集めるためか、旅行者たちに聞いた。みんなはビザ取得にいくら払ったんだ?
国家間の関係性を測る尺度とも言えるビザ料金。最も高くついたのは、イラクやアフガニスタンなど世界各国を旅した経験を持つ50代の米国人で、その額なんと200ドル(約3万1千円)だった。一方、大学院進学を前にして中東文化を楽しみに来たという20代の英国人青年は100ドル、キューバやベネズエラの革命思想に関心があると話す20代のコスタリカ人青年は50ドル支払ったという。
ところで君は?みんなの視線がこちらに注がれた。筆者は答えに窮してしまった。いくら記憶をたどっても、入国審査でお金を払った覚えがないからだ。もしや、代金の支払いを忘れ、違法に国境越えをしてしまったのか。いや、そうではなかった。アユーブは思い出しように、こう口にした。
「忘れてた!君はシリア入国にお金がかからないんだった。朝鮮はシリアビザを無料で取得できる数少ない国の一つなんだよ。それにしても、ツアーグループの中にこんなにも格差が生まれるなんて笑っちゃうな」
自分の言葉に吹き出しながら米国人旅行者をからかうアユーブは、これまた思い出したように驚きの事実を語った。
(つづく、24年8月訪問、李永徳)