公式アカウント

〈ものがたりの中の女性たち85〉「死した魂だけでも清らかな鬼神に」―淑英

2024年12月09日 08:00 寄稿

あらすじ

世宗王の時代、安東に住む没落貴族・白尚君(ペクサングン)とその夫人鄭氏は、熱心に寺に通った甲斐あってかひとり息子・仙郡(ソングン)を授かる。長じた仙郡は読書中にうたたねし、淑英(スギョン)と名乗る美しい仙女が部屋に入ってくる夢を見る。実は自分たちふたりは元は仙界の住人で運命の相手同士、降雨の管理をしていた仙郡が誤って雨を降らせたため人間界に落とされ、後3年間経てば仙界に戻れると言う。

仙郡はその日から淑英を想い、恋煩いのため病床に臥す。また夢に現れた淑英は、自身の肖像画と金の童子の像をお守りに置いていくが、仙郡の病は益々深く、淑英は梅月(メウォル)を彼の侍妾に据え身の回りの世話をさせる。それでも病は深く、心配した淑英はまた夢に現れ、玉蓮(オクリョン)洞にくれば自分に会えると言う。仙郡は気晴らしに物見遊山に出かけると両親を騙し、3年待って欲しいと言う淑英を説き伏せ、玉蓮洞で強引に婚姻し帰郷する。

その後、一男一女をもうけ8年間平穏に暮らす。あまりにも淑英に夢中で学問をおろそかにする仙郡に、両親が科挙を勧めたが、妻と離れたくないと聞く耳を持たない。見かねた淑英が説得してようやく科挙を受けに行くが、妻恋しさに二度もこっそりと家に帰ってくる。

その夜、淑英の部屋から聞こえる男性の声に驚いた舅は、梅月に監視させる。すると、以前から淑英を嫉妬していた梅月は、家の奴婢と共謀し淑英に濡れ衣を着せる。舅は淑英を捕縛させ、使用人たちに鞭打たせる。淑英は屈辱の余り自害するが、その遺体は胸に刃物が刺さったまま部屋から微動だにしない。仙郡が首席合格し帰郷することになると、舅は淑英の自殺の事を隠蔽しようとするが…

第八十五話 淑英娘子傳

筆写本

「淑英娘子(スギョンランジャ)傳」は朝鮮王朝後期の作者不明の古典小説である。仙界で愛し合っていた男女のうち男が天界を追われた後、貞操を疑われた主人公淑英の死と再生、ふたりが再び結ばれるまでを描いた恋物語である。ヒロインの視点から当時の家父長的意識を批判、告発し、恋愛至上主義的な展開が特徴である。

その内容に従来の説話を数多く内包し、小説以外にパンソリや民謡の題材にもなっている。木版本、筆写本、活字本など百数種の異本が存在し、現代では舞台化や翻案小説化、ジュニア用の敷衍化など多岐に渡り、1935年頃には白黒無声映画化され、そのLP版が残っているという。はるかな時を越えて、ものがたりとして「淑英娘子傳」が愛されてきた証だろう。

愚かな男たち

作中、仙郡はまるで駄々っ子のように描写される。他の古典小説でもよくあるように、自分の思い通りにならないとすぐに昏倒したり、病に倒れる。ただ特徴的なのは、恋愛の成就のためには労力を厭わない。学問は嫌でも、淑英に会うためならどんなに痩せて弱っていても、千里の道をものともせずに会いに行く。両親の言うことは聞かないが、淑英の言うことは聞く。3年待てということ以外は。

「科挙の合格や出世は俗物の欲に過ぎません。わが家には数千石の田畑があり、使用人も数千人を越え、何事にも不自由はありません。科挙に合格したところで、何が悲しくて役人になどなりましょうか。もし私が科挙を受けに行くなら、淑英と離別しなければならないではないですか」

Facebook にシェア
LINEで送る