労務トラブルを防ぐには?/河景浩弁護士が語る心得と対処法
2024年12月08日 09:00 暮らし・活動東京・台東での法律・生活セミナーで
プログラマーに「今日からお茶くみだけが仕事」と命じることはパワハラかーー。講師は明快に答える。「今の時代、お茶くみを命じること自体アウト。プログラマーにお茶くみだけを命じるのは侮辱でしかないので、パワハラになる可能性が非常に高い」。東京・台東同胞生活相談センターと同胞法律・生活センターの共催による第3回法律・生活セミナー(11月28日)では、講師を務めた河景浩弁護士が労務トラブルに関するさまざまな問題について実例をあげながら解説。「とても参考になった」「時代の変化に対応できるようアップデートできた」と参加者たちがいう講演の内容とは。
今回のセミナーでは、サービス残業(時間外労働)、パワハラ、セクハラについての基礎知識、具体的な事例、注意点などについて言及された。
サービス残業とは、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を越えた労働に対して賃金を支払わないこと。具体例としては、タイムカードの打刻後に残業させる、「自己研鑽」「努力不足」などと言い残業させる、「契約だから」「管理職だから」などと言い残業代を支払わないといったことがあげられる。
時間外労働の原則は、そもそも使用者は残業を命じることができない。
講師は、「従って、従業員は、理由を述べず残業を断っていい」とし、「しつこく理由を尋ねたらパワハラの可能性がある」と指摘した。一方、時間外労働を命じることができる場合としては、残業代の支払いを条件に、従業員の同意があるとき、災害等(大規模なリコール対応、サーバー攻撃によるシステムダウンも含む)による臨時対応の必要があるときなどをあげた。
今回のセミナーのメインテーマはハラスメント問題だった。
講師は、「使用者には労働契約の付随義務として、パワハラ・セクハラなどがない職場環境を整備する法的義務がある」と強調し、ハラスメント防止のための法的義務とは▼防止規定の策定▼研修の実施▼相談窓口の整備だと述べた。そのうえで、「一番怖いのは、被害者は、加害者だけでなく使用者にも責任追及できる点だ」と注意を促した。
続いて、パワハラの成立4要件について解説した。
➀「職場」において行われる、②「優越的な関係」を背景とした言動である、③「業務上必要かつ相当」な範囲を超える、④労働者の「就業環境が害される」というもので、この4要件がすべて認められるとパワハラになると講師は説明した。
要件③においては、本人が不快に感じたらパワハラになるわけではないと講師は指摘する。
「ひと昔前はこのような認識であったが、法整備されたことで、本人の主観が基準ではなく、客観的要素が重要になる。これは使用者側に有利になる法改正だと思う」(河景浩弁護士)
パワハラの代表的な類型として、➀身体的な攻撃、②精神的な攻撃、③人間関係からの切り離し、④過大な要求、⑤過少な要求、⑥個の侵害がある。
講師は、この6つの類型について一つひとつ具体例をあげながら、わかりやすく説明した。
たとえば、②精神的な攻撃(脅迫、名誉棄損、侮辱)には、「代わりはいくらでもいる」「給料泥棒」などの発言が該当するおそれが高く、遅刻常習の部下に「社会人としての自覚を持て」と強く注意するのは該当するおそれが低いと述べた。
また、⑤過少な要求(必要性・程度の低い業務の遂行命令)として、冒頭にあげた「お茶くみ」が該当し、反対に、電話対応で顧客からクレームがあった新人に「当面は内線だけ取れ」と命じるのは、該当するおそれがひくいと述べた。「当面」とすることで、今後は電話対応への復帰をにおわせ、また、バカにしていることではないと、その理由を付け加えた。
講師はパワハラ防止の留意点について、「人前で注意・指導しないこと。屈辱感、侮辱感を与える要素になる」としながら、「指導するなら1対1ですれば良い。注意・指導するときは部下を孤立させない配慮が大切だ。注意した後、他のひとにこの部下のフォローをするような気づかいも大事」だと強調した。
一方、「注意・指導は証拠化されていると考えるべき」とし、「今はスマホで簡単に録音できるので、言葉を選んで発言するのが良い」とアドバイスした。
また、パワハラ被害の申告があったときは、基本は事実の有無を調査することだとし、被害が認められた場合は加害者への懲戒処分、再発防止措置を講じ、被害が認められなかった場合は、認定に至らなかった経緯を申告者へ説明して話し合いの機会を設けるべきだと話した。
セミナーではセクハラについての説明があり、最後に、労務トラブル対応の心得について話された。
河景浩弁護士は、「管理者の仕事は何かとたいへんだが、トラブルが起きた後のほうがもっとたいへんなので、起こらないようがんばってほしい」とエールを送った。
(姜イルク)