神奈川中高、事業完工を記念し感謝祭/約1千人が参加
2024年11月09日 08:00 民族教育一新された学び舎、同胞愛で築き
神奈川ミレプロジェクト感謝祭が11月3日、横浜市にある神奈川中高・横浜初級の敷地で行われ、総聯中央の宋根学副議長兼教育局長、総聯神奈川県本部の高行秀委員長、同校の金燦旭校長、70周年記念事業実行委員会の殷鍾浩委員長(64、同校教育会会長)をはじめとする同胞、日本の市民ら約1千人が参加した。
神奈川中高では、学校創立70周年に際した校舎リノベーション事業「神奈川ミレ(未来)プロジェクト」を22年4月にスタートし、昨年6月からは本格的な工事が進められた。▼安全安心の空間確保、▼校舎維持管理の効率化、▼教育インフラの整備という3つのコンセプトで進められた同事業を通じて、この間、校舎の耐震補強および防水工事が行われ、給排水管設備やトイレが一新された。また、校舎内照明のLED化、全教室にあった黒板のホワイトボード化、Wi-Fi環境の拡張などより良い学びを促進する環境が整えられた。
今回の感謝祭は、神奈川民族教育100年に向けて推し進めてきた同事業の完工を知らせ、それに伴う募金運動への賛同など多方面で支援、協力を寄せてくれた卒業生や保護者、同胞、日本の市民らに心からの感謝を伝えようと企画された。
同校運動場で行われた感謝祭では、神奈川中高・横浜初級の園児・児童・生徒らが総出演した合唱に続き、テープカットが行われた。特設ステージの壇上にあがった学校関係者や70周年記念事業実行委員会のメンバーらは在校生や同胞たちに囲まれて、感極まった様子でテープを切った。
実行委員会の殷鍾浩委員長は、「今日こうして新校舎で学ぶ児童・生徒たちの喜びに満ちた姿をみると感無量だ」としながら、プロジェクト成功のためにサポートしてくれたすべての人に謝意を表した。そのうえで「神奈川民族教育の輝かしい未来を切り拓くために、力を合わせ皆で頑張っていこう」と述べた。
この日のステージでは、来賓紹介やリノベーション工事を担った建設業者への感謝状が伝達されたほか、在校生や朝青員らによる歌や舞踊、民族器楽・洋楽器のステージなどが花を添えた。一方、場内には七輪を囲み、焼肉に舌鼓を打つ参加者たちの輪が一面に広がった。
感謝祭は、行事終盤の学生対象の抽選会、民謡メドレーで盛り上がりが最高潮に達した中で閉幕した。同日、神奈川中高では文化交流祭が同時開催された。
未来創るのは大人の役目/参加者の声
「子どもたちが他の学校に比べて不足を感じないようなリノベーションができてほっとしている」
横浜初級の保護者、崔炳珠さん(47、40期卒業生)はそう言って胸をなでおろした。現在、同校に2人の子どもを送る崔さんは「大事なことは子どもたちが当たり前の教育を当たり前に受けること」だと語る一方で、この日の感謝祭などで子どもたちが大人たちに向けて謝意を伝える姿に「ありがたいが、本当はそういう言葉を言わしちゃいけないんじゃないかと思う」と本音を明かす。「子どもたちの未来を考えるなら、大人が率先してどういう社会を築いていくべきかを考え、子どもたちを守っていかなくてはならない。(リノベーション事業が)そのことに大人たちが気づき、責任をもって次の世代にバトンを繋ぐきっかけになればと思う」(崔さん)
張晟嶺さん(30、57期卒業生)は5人の同級生と共に感謝祭に参加した。張さんら57期卒業生たちは今年、卒業から10年を記念する同窓会をひらいた。その際に寄金運動について説明し、皆に協力を募った。張さんの呼びかけには同級生全員が呼応し、期として10万程を寄付した。
張さんは「新たにリノベーションされたハッキョ(学校)をたくさんの後輩たちが通ってくれたら嬉しい」と語りながら、まだ保護者として通わせるような直接的な貢献はできなくても、同級生たちとのかけがえのない思い出をくれた学校を全力でサポートしたいとほほ笑んだ。
「この間、朝大に通う神奈川の同級生たちで募金運動をしたり、同期全体でも積極的に連絡を交わし募金を集めた」。卒業から3年が経ち、現在は、朝鮮大学校に通う金彩琳さん(教育学部3年、66期卒業生)は言う。金さんは、卒業生の一人として関与した今回のプロジェクトについて「生徒たちはもちろんのこと、今後神奈川の同胞社会を守っていくためには学校そして民族教育の場が重要だと思う。だからこそ、リノベーション事業によって(民族教育に)前進をもたらすことができてよかったと思う」と振り返った。大学卒業後には教員になることを夢みる金さんは、「同胞社会を守るための人材は民族教育を通じてこそ育つと思う」と述べ、「神奈川同胞社会の未来と民族教育を守るためにできることをすべてやろう」と、思いを新たにしている。
愛情を力に
神奈川中高の教員たちも、同胞たちから受けた愛情を力に、さらに魅力ある学校へとアップデートしていく決意を固めていた。
教員2年目の盧逵錫さん(63期卒業生)は「同胞たちが大事なお金を集めてくれて、またアボジ会やオモニ会が学校のために汗を流す姿を間近で見てきた」とし、「自分たちが守りたくて携わる学校だ。学びたいと登校してくる生徒たちのために、保護者・同胞たちのために、神奈川同胞社会の大事な学び舎を守り発展させていきたい」と語る。また教員1年目の黄永輝さん(北海道出身)は「同胞たちの愛は、自分たち教員に、子どもたちを立派に育ててほしいと託した信頼の表れだと思う」と述べ、教員3年目の姜未優さん(62期卒業生)も「生徒一人ひとりの未来を担える教員が1人でも多くいたら、同胞たちも安心して送ってくれるはず」だと前を見据えた。
世代超えた支持基盤
「石川さーん!!」。感謝祭中、生徒たちから温かな声援が飛んだ一幕があった。
リノベーション事業に携わった石川信寿さん(58)が登壇した時のことだ。石川さんは、約2年半の事業推進期間、メインの工事のみならず、休日に自ら学校に出向いて、水場の工事や壁のペンキ塗りなど校舎の至る所の修繕を買ってでた。
「朝鮮学校のことは工事に携わるまで全く知らなかった」という石川さんもまた、朝鮮学校の魅力に惹かれた一人だ。「新しい校舎を維持しながら次世代に継いでくれたら私たちとしてもやったかいがある」(石川さん)。
感謝祭のステージでは、サポートファンディングのメンバーたちが紹介された。サポートファンディングとは、クラウドファンディング(CF)の目標達成をサポートするために、応援したい人が自ら寄付を集めるキャンペーンのことだ。
メンバーの一人で、かながわネットワーク運動の竹中麻美さん(64)は、神奈川中高への補助金停止直後、同胞から意見書に賛同してほしいと頼まれ、「ただ賛同するのは簡単だが、朝鮮学校を理解したいとの思いで勉強会をしはじめた」。それから約10年が経過した。竹中さんは「学んでみると、朝鮮学校のことを十分理解していなかったし歴史についてもそうだった」とし、学校にとどまらず在日朝鮮人のコミュニティーとして大きな役割を果たす同校にこれからも寄り添っていきたいと話した。トイレのリノベーションのために展開したCFを牽引したこのメンバーたちと共に、学校ではこの間、約370万円(95%が日本の方)の寄付を集めたことを感謝祭で報告した。
約2年半の募金運動を通じて、現在までに約2億2900万円を超える寄金が集まり、目標額まで残り2100万円の状況。募金運動は来年3月まで実施されるという。
実行委員会の殷鍾浩委員長は、「この間、ひとつの目標に向けて駆け抜ける連帯感が生まれ、とりわけ教育会が鍛えられた。今後は金額もそうだが、参加者をさらに募り、その数にこだわっていきたい」とし、世代を超えて学校の支持基盤を固めていくことを誓った。
(韓賢珠)