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〈本の紹介〉ネイティブス 帝国・人種・階級をめぐる自伝的考察/AKALA著

2024年10月03日 08:00 文化・歴史

帝国、植民地、白人至上主義の克服へ

感覚社。3300円+税

本書は2018年にイギリスで出版され、20万部をこえるベストセラーとなっている。著者のAKALA(本名:キングスリー・デーリー)は英国で注目を集めるラッパーで、作家、詩人、政治活動家などの顔も持っている。1983年にジャマイカ系黒人の父とスコットランド系白人の母との間に生まれた著者は、暴動やアパルトヘイト闘争に揺れるロンドンの貧困地域で母子家庭の子どもとして育ち、さまざまな政治問題に囲まれる中で幼少期から帝国主義と白人至上主義の異常とも言える残虐性、英国に根強く存在する深刻な階級的不平等を知った。

本書は著者の幼少期の回想から始まり、大英帝国及び英国の歴史と文化を、人種と階級の視点から批判的に考察。「白人」である母との葛藤、人種差別を否認する人々の常套句、英国人の帝国主義的思想観を温存するプロパガンダ、英国の学校教育やスポーツにおける黒人性、米英における黒人の被差別経験の比較、白人世界の衰退と資本主義の終焉など多岐にわたるテーマを取り上げ、いくつもの鋭い問いを読者に投げかけている。

中でも、南アフリカのネルソン・マンデラとキューバのフィデル・カストロに対する西側世論の対照性に関する考察は興味深い。著者は、アパルトヘイト廃止後も階級関係を温存させている国は称賛するが、反人種差別闘争に貢献しながら自国の階級関係を革命的に変化させた国は憎悪するという、英国の主流派のあり方を指摘。一方で第三世界と繋がっている人々は異なった解釈や記憶を持っていると述べている。非西側の眼差しは世界の自主化、多極化が進む昨今に欠かせない視点だと言える。

本書の第2章には日本に関する言及もある。そこでは、19世紀に「欧米」思想を取り入れた大日本帝国が極度の残虐性で欧米の白人至上主義に影響を与えたとし、日本が犯した罪悪の未清算がアジア諸国の反感につながっていることにも触れている。われわれは、帝国主義、植民地主義、白人至上主義を克服した社会の構築にどのように取り組んでいかなくてはいけないのか。本書に通底している問題提起は、日本市民が自ら向き合うべき課題であろう。

(徳)

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