〈ものがたりの中の女性たち81〉「巫女にも本物と偽物がいます」ー巫女某

あらすじ

松(ソン)象(サン)仁(イン)は剛直で正直な男である。彼は巫俗人が迷信で人々を騙し、私腹を肥やしていると信じ、彼らを憎んでいる。先祖の霊や鬼神など見えるはずはないと、いつも巫女(ムニョ)や巫覡(ムギョク)（男性の巫人）をこの世から消し去ることばかり考えている。そんな彼が南原府使になり早速したことは、「私の赴任中はすべての巫俗行為を禁じる。巫女や巫覡だと名乗る者は即時死刑に処す」と命じることだった。すると、南原のほとんどの巫俗人たちは恐怖に震え、他所に逃げてしまう。松公は、巫俗人たちが二度とこの地を踏むことはないだろうと、内心ほくそ笑む。

ある日、松公が廣寒楼に登り辺りを眺めていると、美しい女が馬に乗り、 缶(プ)（粘土を焼いて作った打楽器）を頭に載せて進んでいる。それはまごうことなき巫女の姿だった。すぐに捕えて役場に引っ立て尋問する。死を覚悟の上の所業かと巫女に訊ねると、彼女はにっこりと微笑み静かに答える。巫俗人には本物と偽物がいると。松公は彼女に、自分が本物だということを証明して見せろと言う。本当に鬼神が呼べるなら、松公の死んだ友人を呼べと。

すると彼女はおもむろに、ふた皿の料理と酒、松公が着たことのある衣服を一枚用意してほしいと言う。公がその通りにすると、巫女は役所の前庭に茣蓙を広げ、酒と料理を並べると、その前で公の衣服を頭から被り、鈴を打ち鳴らし、虚空に向かってずっと何かを呟き、その亡くなった友の霊を呼び続ける。すると遂に、彼女の口からは信じられないくらい低く太い声が漏れる。「わしだよ。今戻ったぞ。あのときは悲しかったな。まさか先に逝くなど考えもしなかったが…」

第八十一話　府使を涙させた巫女

「巫女」民画

「府使を涙させた巫女」は、