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永住資格取消事由を拡大する改定に反対/在日コリアン弁護士協会の声明(全文)

2024年06月24日 08:36 権利

在日コリアン弁護士協会(金哲敏代表)が13日に発表した「永住資格取消事由を拡大する入管法改定に反対する声明」は次のとおり。

2024年3月15日に国会に提出された、出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改定する法律案(以下、「本改定案」といい、出入国管理及び難民認定法を「入管法」という)は、5月21日に衆議院本会議で可決され、現在、参議院で審議されている。

本改定案は、現行の技能実習制度の代替として、新たに育成就労制度を創設することに伴い、外国籍者の受入れ数が増加することが予想される中で、「永住許可制度の適正化」を図るものとして、入管法を改定し、永住資格取消事由を拡大しようとするものである。本改定案によれば、①永住者が在留カード不所持(現行法第23条第2項)・在留カード紛失等の際の14日以内の再交付申請義務(現行法第19条の12第1項)などの軽微な入管法違反を含む入管法の義務に違反した場合、②公租公課を故意に滞納した場合、③住居侵入や窃盗等により、1年以下の拘禁刑(執行猶予付を含む)に処せられた場合についても、永住者の在留資格を取り消すことができるものとされている(本改定案第22条の4第1項第8号、第9号)。

しかし、そもそも永住者の在留資格は、現行法下においても、当該外国籍者の素行が善良であり独立した生計を有することに加え、原則として、10年以上継続して日本に在留するという、諸外国と比しても厳格な要件の下で付与されている一方で、在留資格取得後も、刑罰法令違反により1年を超える懲役や禁錮に処せられた場合には退去強制の対象となるなど、必ずしも十分な権利性を有する法的地位が保障されているとは言い難い。

2023年12月末時点において、日本では約89万人の永住者が在留しているところ、永住者は、これらの厳しい要件を満たして初めて永住資格を取得し、これを維持することを通じて、日本に長期間在留し、生活の基盤を確立するに至っているものであって、このような永住者の努力の上に確立した日本における生活の基盤を喪失させることとなる永住資格の喪失措置については、人権保障の観点からも、慎重に慎重を期さなければならないことはいうまでもない。また、特に、未だ厳格な血統主義国籍法制を堅持している日本においては、日本生まれの永住者の子も、日本国籍を当然に取得することができず、先祖代々100年以上にわたって日本で生活をしている永住者の2世、3世、そしてそれ以降の世代も多数存在するところ、このような永住者2世・3世等は、生涯にわたって生活の本拠地が日本にある点は日本国籍保持者と変わらず、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)第12条第4項により、「自国」である日本に戻る権利を恣意的に奪われないことが保障されているにもかかわらず、本改定案はこのような日本生まれの永住者を区別することなく、永住資格取消事由を拡大し、その法的地位を著しく不安定なものにする点で、重大な人権侵害を伴う内容となっているものである。

この点、本改定案が問題視する、法令上の義務に違反したり、故意に公租公課の支払いをしなかったり、罪を犯すことが、一般的に法的非難を受けるべき行為であることはそのとおりであろう。しかし、これらの義務違反に対しては、それぞれの法令により、比例原則に則った制裁が課されているのであり、それに上乗せして、永住者に対してのみ、軽微な法令違反を理由とする永住資格の広範な取り消しにより生活の基盤を喪失させる過剰な制裁を課すことができる制度を設け、永住者の法的地位を著しく不安定なものとすることを合理的に正当化できるだけの比例原則上の根拠は、これまでの国会における審議を通じても何ら明らかにされていないのである。

さらにいえば、仮にこれらの行為を犯した永住者が、「在留資格を有するに相応しくない」として、これを剥奪することが認められるのであるとすれば、同様の行為を犯した日本人が、「日本国籍を有するに相応しくない」としてこれを剥奪することが認められない理由は何であろうか。この点、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)第12条第4項が、「国籍国に戻る権利」ではなく「自国に戻る権利」すなわち「特別な関係を有する国(自国)」に「戻る(その前提として留まる)ことができる権利」を保障していること(自由権規約委員会の一般的意見27)に鑑みれば、同改正案により、永住者と日本国籍者に対する制裁に著しい差異を設けることは、それ自体が法律による平等の保護を受ける権利を侵害する不合理な差別として、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)第26条に違反し、許されないものであることは明らかであろう。

また、このような国際人権条約に違反する法改正を強行すれば、日本社会において、最も安定的な在留資格を有する永住者であっても、外国籍者である限り軽微な法令違反があれば容易に日本から追放することが是認されるのであるという誤った認識を蔓延させ、外国籍者に対する差別や外国籍者の人権を軽視する風潮を助長し、共生社会の実現を顕著に阻害するものと懸念される。この点、ヘイトスピーチ解消法においては、「本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する」差別的言動は解消されるべきものとされているが、本改定案が永住者の人権保障や比例原則に対する慎重な検討を欠いたまま、拙速に制裁規定を設けようとするものであることを考慮すれば、このような差別的言動を正当化する根拠とさえなりかねない、極めて危険な立法措置であることもまた指摘せざるを得ないものである。

上記の危惧については、衆議院における審議においても、一定の検討がなされ、政府に対し慎重な運用や配慮を求める附則の追加や附帯決議がなされてはいるが、永住者及びその家族の生活の基盤となる在留資格の剥奪について、入管当局の広範な裁量を認めるという本法案の根本的な問題は何ら解決していない。

当協会は、永住者とその家族らの人権を過剰に制限し、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)等に違反する重大な疑義のある本改定案の立法に強く反対するとともに、政府に対し、日本に生活基盤を有する外国籍者の人権、とりわけ日本生まれの永住者2世・3世等をはじめとする日本を「自国」と評価すべき特別の関係を有するに至っている外国籍者の人権に十分配慮した施策の推進を求める。

(朝鮮新報)

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