〈本の紹介〉コレクターズ・ハイ/村雲菜月著
2024年06月22日 09:00 文化・歴史「推し活」に見る社会の闇
推し活とは、アイドルやキャラクターのグッズ集めなど、ファンの応援活動を指す。本書は、それに励む主人公が、次第に増幅されていく欲望によって壊れていく様を描いた小説だ。
著者の村雲菜月は2023年に群像新人文学賞を受賞、本書は受賞作に次ぐ新作。著者は読売新聞の取材に「消費者を見つめる中でどういう執着を持って集めているか気になった」と執筆の動機を語っている。
本書の主人公・三川は「なにゅなにゅ」というキャラクターを推し、部屋はそのグッズで溢れている。モノへの執着によって視野が狭まることで「他人に迷惑をかけるような人間にだけはなりたくない」という信条を持つ三川だったが、他のなにゅなにゅコレクターへの競争心から徐々に欲望が増し、「なりたくない人間」へと変貌していく。三川の収集欲は、頭を撫でられるという不快だった行為まで快諾してしまうほどに膨れ上がっていた……。
このような三川の変化を通して消費社会の闇を見ることができる。趣味で装飾品やマスコット作りをしていた三川は玩具会社に勤め、カプセルトイの企画に携わるクリエイターだったが、最終的に根っからのコレクターと化す。その発端について、三川は独白でこう語っている。
「働きはじめてから、自分がよいと思うものではなく売れそうなものを考える仕事なのだと理解していくうちに、期待の方向が間違っていたことに気づいた。(中略)なにゅなにゅを見つけたのは、そんな風に目標もやりがいも見失って落ち込んでいた頃だった」
このことから、三川にとっての仕事(労働)は主体的な意思で行うものではなく、「売れるもの」を考えるという苦痛へと変化していると理解できる。また、なにゅなにゅも三川の痛みの陣痛剤としては機能するが、完治させる救いとはならない。さらに、なにゅなにゅへの「推し活」は三川の判断力を鈍らせ、人間としての自主性、倫理観を腐らせていく。
著者の小さな探求心から出発したこの物語は、資本主義社会における不条理を赤裸々に告発する。
(晟)