〈続・歴史×状況×言葉・朝鮮植民地支配と日本文学 66〉世界の奈落における読書案内④
2024年05月11日 06:00 寄稿奈落から届いた「抵抗=愛」の文学
『現代思想』今年2月号は、特集「パレスチナから問う」を組み、アラブ文学者の岡真理氏は「小説 その十月の朝に」を寄稿した。知人を通じて届けられたアフラーム・ガッザーウィーの小説「その十月の朝に」は、昨年10月の武装闘争に参加したパレスチナのマルキスト青年の手記あるいは手紙形式の作品で、岡氏によるその日本語訳を、訳者前書きと、解題・註釈が前後で挟む構成となっており、これらの文章全体を含めて岡氏はあくまでも「小説」と称している。虚構と進行中の現実、原作者の感情世界と訳者の想像力とが折り重なるこの作品は、「小説」なるジャンルの幅と可能性を、「世界のイスラエル化」に抗して押し広げている。「小説」だからこそ、出来事と人間の行動の背後に息づいている思想感情にまで迫りうるという、岡氏の信念に貫かれた作品である。