〈本の紹介〉僕の好きな先生/宮崎亮著
2024年01月19日 16:00 社会共生の尊さ学ぶ
2021年4月、当時の松井一郎大阪市長は新型コロナウイルス第4波感染拡大の対策として、「小中学校は自宅オンライン学習を基本とする」方針を発表。唐突な方針発表は、教育現場と学校保護者らを混乱させた。翌月、大阪市内の公立学校で校長を務めていた久保敬さんは、市の教育行政を批判する文書「大阪市教育行政への提言」を同市長宛に提出。現職の学校長による実名での市長批判は異例のことだった。
当時、朝日新聞社・大阪社会部に勤務していた著者は、提言書提出の事実を耳にし、久保さんへ取材をオファーした。本書は、久保さんの教員生活についての取材内容をまとめたもの。
著者は、久保さんの教員時代を掘り下げるため、教え子への取材を重ねた。小学生時代、久保学級で2年間を過ごしたお笑いコンビ・かまいたちの濱家隆一さんもその一人だ。
2人の対談インタビュー「僕の好きな先生」で、濱家さんは「みんなで目標に向かって一致団結することとか、周りの人と調和するとかっていうのは、久保先生から学んだ」「めっちゃ細かい所まで見てくれた」と語る。手書きの学級便りで児童の長所や成長、小さな変化まで細かに報告し、自分の指摘が間違っていた時は、小学生相手でも誠心誠意謝ったという。「いい教師」を模索し続けた久保さんの教員としての志と責任感に背筋が伸びる。
本書では解放教育(同和教育)との出会いも語られた。被差別部落出身や民族名を隠す在日朝鮮人、知的障がいを持つ児童を担任しながら、自身に内在する差別意識と向き合うようになったという久保さん。このような背景を持った児童たちとの出会いは、教え子たちへ「相手の立場になって考える」「生き抜くのではなく生き合う」ことを教えるというかれの教育理念に大きな影響を与えた。
本書に登場する久保さんの教え子たちはみな、人と向き合う力を持つ。解放教育では、差別の実態を知り、道徳、人権について理解を深める。排外主義や差別を是正する上で、そのような教育が持つ力と重要性を感じた。
民族教育の変わらぬ価値とは何か。それは、民族の歴史や文化のみならず、「共に学び、共に育ち、共に生きる」ことの大義を学ぶ所にあるのではないか。本書を通じ、民族教育の価値に再び気づくことができるだろう。
(忠)