決意、希望、期待を胸に/第1回文芸同兵庫舞踊部定期公演
2023年12月22日 08:40 文化・歴史輝く28人の舞姫たち
16日、文芸同兵庫舞踊部が主催する第1回定期公演が行われた。
学業や仕事、家事や育児など日常生活を送る中、取り巻く環境も世代も異なるメンバーたちが「朝鮮舞踊への愛」を共通項に集まり活動しているのが、各地の文学芸術家同盟傘下舞踊部に所属するメンバーたちだ。
この日の公演では、20代から30代前半までの朝青組12人、30代後半から50代までの成人組16人からなる総勢28人の舞姫たちが、「先代や恩師からの教えを受け継ぎ、舞踊を通じて同胞コミュニティに恩返しをしていきたい」との決意を込めて、渾身の作品を披露。場内からは出演者へのエールや歓声が幾度となく飛び交うなど、笑いあり、時に涙ありの温かな公演となった。
2018年12月、同舞踊部では、これまで活動発表の場として設けてきた「第6回朝鮮舞踊の夕べ」公演を開催。それから5年を経て今回、第1回定期公演の日を迎えた。
同世代のメンバーたちと踊る喜びをかみしめていたのは、朝青組の責任者をつとめる白未来さん(23)だ。5年前の公演以降、朝青組では、就職やコロナの影響もあり、当初20人近くいたメンバーが、2~3人しか集まれなくなるほど「活動は停滞していた」。日々の基礎練習というインプットの場はあっても、それを発表するアウトプットの場が長らくなかったことが大きな要因だった。
公演開催が決まり、すぐに同級生や先輩、後輩たちに手当たり次第に連絡したという白さん。「この機会を逃してはならないという一心だった」。そんなかのじょの呼びかけに、「踊りたかったけど機会がなかった」「連絡を待っていた」などと思いがけない反応がつづき、活動に合流するメンバーたちが一人、また一人と増えていった。
玄玉希さん(27)も今年から朝青組の活動に合流した一人だ。結婚を機に3月に教員を退職し、迷わず舞踊部に入ることを決めた玄さん。今回は出演者らを支える裏方としてサポートにまわったが「次回は必ず出演者として参加する気持ちでいる」という。
人の心を動かす作品を世に届けてきた恩師の影響で、神戸朝高舞踊部への入部を決め、その後も、教員として次世代育成に力を注いだ玄さんだが、「これからは自分が踊ることでその精神を継いでいきたい」と語る。「同級生たちの中でも、日本の人たちと恋愛したり結婚したりするのが現実として身近にある。それを受け止めながらも、高校時代、共に舞踊部だった同級生たちを文芸同へ引入れたい。そして兵庫で民族舞踊を守る基盤をつくれたら」。
白未来さんは、「いったん同胞社会を離れると、舞踊に触れる機会はほぼなくなってしまう。今回改めて感じたのは、舞踊を通じて自分がチョソンサラムであることや、民族的アイデンティティも再確認できるということ」だと話し、今後3年、いまいる朝青組のメンバーと、さらに多くのメンバーたちを巻き込み「文芸同を通じて同胞社会の輪を感じれるような活動をしたい」と前を向いた。
バトンを握りしめて
文芸同兵庫舞踊部では、今年に入り、役員が一新された。
「次にいつやるかわからない公演ではなく、定期的に開催するという目標を掲げて活動していこう」(金順寛舞踊部長、45)。「第1回定期公演」と掲げた背景には、そんな新役員たちの思いがあった。
当初、朝青組では活動人数が減る一方、成人組でも高齢化が進み、年齢を重ねるにつれて活動を負担に考える人たちも出てきていた。
そんな中、金順寛舞踊部長が定期公演について提起した際、メンバーたちにこう話したという。
「県内のウリハッキョで学ぶ舞踊部員たちが減っていく中、文芸同という枠組みが最後の砦のような場所だと思う。その砦がしっかりしていれば、次世代はちゃんと育っていく」。
一方で朝鮮舞踊といえば、「『やりたくてやるんでしょ』『自己満足じゃないの』などと誤解されがち。公演を開催するにあたり、『何のためにこの公演をするのか』を何度も考えた」と打ち明ける金部長。たどり着いた答えが「同胞たちの民族的アイデンティティを引き出し、民族教育の発展のために」だった。
「思えば民族教育を通じて朝鮮舞踊と出会い、在日朝鮮人として成長してきた。それに朝鮮舞踊は、舞踊をまったく知らない同胞たちの、民族的情緒や心を引き出す力がある。公演を通じて、その一助になれるのではないかと思った」。
この日の公演では、同舞踊部の活動を振り返る映像が上映された。映像終盤、テロップには「先代たちから受け取ったバトンをいま握りしめている。次代に渡すために」の文字が。「自分たちがやって終わりではなく、次の世代が舞踊をできるような基盤をつくる、そしてつなぐことが私たちの役目だ」(金部長)
祖国を感じ、思う
今年1月から、16年ぶりに舞踊をはじめたという金怜河さん(35)は昨年、姫路支部舞踊サークルの発表会に携わったのを機に、舞踊愛が再燃し、文芸同活動に参加することを決めた。
「子どもが産まれて、その子がハッキョに通うようになり、こうして文芸同に加わったことで、家庭から学校、そして文芸同と生活の範囲が広がった。関わることのなかったオンニたちと一緒に踊りながら、いまがすごく楽しく、幸せだ」(金さん)
「舞踊が好きなのはもちろんだが、それ以上に新役員たちを応援したいという気持ちが大きかった」。
全出演者の中で「皆が頼れる一番のオンニ」。金聖淑さん(54、女性同盟西神戸支部副委員長)はそう語る。大阪出身で、結婚後に神戸に拠点を移したという金さん。長らく舞踊から離れていたかのじょが、とある舞踊経験者たちが集う場で、群舞「三色舞」を踊ることに。「鳥肌と涙が止まらなかった。忘れていたものを思い出させてくれてありがとうと思えた」。金さんが、子どもを出産後に舞踊をはじめたきっかけだった。
「チャンダンを聞いて心が奮い立たされるのは、やっぱり民族教育のおかげ。それに踊るときは、作品を通じて祖国を感じ、思っている。この貴重さを、まず自分が忘れないでいたい。そして娘たちにも、私の姿を通じて忘れている思いを少しでも抱かせることができれば」(金さん)
公演の最後を飾るフィナーレで、満面の笑みを浮かべ舞台上に立った28人の舞姫たち。文芸同活動への決意や希望、期待であふれているようだった。
(韓賢珠)