〈そこが知りたいQ&A〉朝鮮の偵察衛星打ち上げ、その目的は?
2023年11月30日 07:59 軍事11月21日、朝鮮初の偵察衛星「万里鏡−1」号が新型衛星キャリア・ロケット「千里馬−1」型によって成功裏に打ち上げられた。朝鮮の偵察衛星保有の目的と意義について解説する。
国家安全のための正当防衛権の行使
-偵察衛星打ち上げに関して朝鮮はどのような立場を示しているのか。
敵対勢力の軍事的動向を把握するための宇宙偵察能力の保有は、2021年1月に開かれた朝鮮労働党第8回大会で示された国防発展5大重点目標の一つだ。党大会の時点で偵察衛星の設計が完成した事実が公開されていた。今回、2度の失敗を経て打ち上げに成功し、衛星を軌道に乗せたことで、先端技術を要する宇宙開発プロジェクトが2年10カ月という短期間で最初の成果を生んだ。
現在、軍事偵察衛星を保有する国は、およそ10カ国程度と推定されている。他国の衛星が集めたデータを利用することもできるが、任意の時間に自国が望む場所のデータを収集するには支障がある。特に朝鮮は、衛星をはじめとする数多くの空中諜報手段を保有し、世界各地を常時監視している米国といまだ戦争状態にある。
偵察衛星の開発・打ち上げは、朝鮮が敵対勢力の軍事的動向を常時把握するためのものだ。党大会以降、朝鮮は国家の安全環境と領土完整を守るための偵察衛星の保有は、国家主権、正当防衛権の堂々たる行使であるとの見解と立場を表明し、開発プロジェクトの進展状況についてメディア報道を通じて随時明らかにしてきた。
国家宇宙開発局(当時)と国防科学院が「軍事偵察衛星開発のために重要試験」を行ったというニュースが、宇宙から見た地球の写真と共に、朝鮮メディアによって初めて伝えられたのは2022年2月。「最終段階の試験」は昨年12月に行われた。偵察衛星は今年の5月と8月に打ち上げられ、結果は失敗に終わったが、朝鮮メディアはその度に失敗の原因についても言及していた。
-朝鮮において偵察衛星の保有は軍事的にどのような意味を持つのか。
一言でいえば、国家の戦争抑止力を強化し、戦争遂行能力を向上させる上で戦略的意義がある。
例えば、党大会で決定した国防発展5カ年計画に沿って、この間に朝鮮半島とその周辺の地理的条件、朝鮮人民軍の作戦構想に基づく戦略及び戦術兵器が相次いで開発された。すでに実戦配備された兵器もある。敵軍の動向を正確に把握する手段を獲得すれば、朝鮮の様々な戦争抑止手段の軍事的効力と実用性は格段に高まる。これについて金正恩総書記は、共和国武力が今や万里を見下ろす「目」(偵察衛星)と万里を叩く強力な「拳」(戦略戦術ミサイル)をすべて手中にしたと述べている。
-朝鮮の衛星打ち上げは「国連安保理決議違反」という指摘があるが。
国際的な視野に立てば、朝鮮の衛星打ち上げを非難する勢力の本音が見抜かれていることがわかる。国連安保理常任理事国である中国、ロシアは非難しない。それを問題視するのは朝鮮の戦争抑止力が強化されることを望まない米国とその同盟国などだ。いま、朝鮮半島とその周辺で軍事的緊張を高めている戦争挑発者とその追随勢力と言い換えることもできる。
1998年、朝鮮初の人工衛星「光明星-1」号が打ち上げられた時、その運搬ロケットを「テポドン」と勝手に名付けて弾道ミサイルが発射されたと騒ぎ立てた敵対勢力の悪習は、四半世紀が経った現在も続いている。日本の岸田首相は今回、「人工衛星と称したとしても、弾道ミサイル技術を使用した発射は、国連安保理決議違反」と断定、「北朝鮮に対して厳重に抗議し、最も強い口調で非難した」と記者団の前で述べた。使い古されたミスリードの手法だ。
-朝鮮から打ち上げられたのは宇宙ロケットだが、日本ではJアラートが発令された。
「衛星打ち上げと称する弾道ミサイル発射」のレトリックは破綻した。そのことに多くの人々が気付いている。朝鮮は米国本土に達するICBM(大陸間弾道ミサイル)の試射を何度も成功させた。新たに開発された新型ミサイルの試射だけではなく、人民軍にすでに実践配備された弾道ミサイルの発射訓練が行われたこともある。いまさら朝鮮が衛星打ち上げを口実に弾道ミサイルを発射しなければならない理由などない。
今回、朝鮮が規定に沿って国際海事機関(IMO)の地域別航行区域調整国である日本の海上保安庁に衛星打ち上げ計画を通告したのにもかかわらず、国防省は自衛隊に「破壊措置命令」を出した。当日は沖縄にJアラートが鳴り響き、それが大々的に報じられた。日本の政府とメディアは衛星打ち上げを「北朝鮮のミサイル脅威」というフィクションを拡大再生産し、隣国への反感を煽る口実としていまだに利用している。
-弾道ミサイル発射や衛星打ち上げに対する不当な二重基準を非難する論調もある。
朝鮮戦争は終わっておらず、朝鮮と米国は停戦協定によって戦闘行為を一時中断しているに過ぎない。朝鮮に対する米国の戦争威嚇は黙認し、それに対する朝鮮の自衛措置だけを問題視して「制裁」対象とする。そのような国連安保理決議を朝鮮は認めていない。
衛星打ち上げに関して言えば、南朝鮮は11月30日、米宇宙開発企業スペースXに依頼して初の偵察衛星を打ち上げた。日本も来年1月に情報収集衛星を打ち上げ、2029年まで4基の衛星を確保する計画を発表している。米国は同盟を結んだ軍部が敵国である朝鮮を監視する能力を持つことを反対しない。
「弾道ミサイル技術を使用したいかなる発射も禁止する」という制約が朝鮮にだけ適用され、朝鮮を敵視し誹謗中傷する国々には適用されない。そこに客観的、合理的な理由などない。朝鮮に関する既存の安保理決議には、そもそも国連の基礎である「加盟国の主権平等の原則」に反する根本的な問題点がある。
-朝鮮の偵察衛星に関する今後の計画は。
宇宙征服の道は単なる科学の道である以前に革命の道、自主・自立の道である―金正恩総書記の言葉だ。偵察衛星打ち上げの翌日、国家航空宇宙技術総局の平壌総合管制所を視察した金正恩総書記は、わが国家が自らの力と技術力で航空宇宙偵察能力を培い、ついに保有したことは国家武力の発展において、そして地域軍事情勢の新たな局面に備えることにおいて、大きな出来事になると述べた。
朝鮮は「今後、5カ年計画の期間に多くの偵察衛星を太陽同期軌道に多角的に配置し確かな情報収集能力を構築する」と表明していた。国家航空宇宙技術総局は、その具体的計画を年末に招集される朝鮮労働党中央委員会第8期第9回総会に提出するという。
(金志永)